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Title: Android登場の背景と、無線オープン・アクセス政策の日米比較研究
Updated: 2008/01/16
Category: 市場環境分野
Areas: 世界 米国 日本

Android登場の背景と、無線オープン・アクセス政策の日米比較研究

巷間噂され、2007年11月5日、ついにベールを脱いだ「GPhone(グーグル電話)」は、Linuxをベースに開発された携帯端末用の基本ソフト「Android」だった。GoogleはAndroidをOpen Platformと位置づけ、これによって携帯端末をPCのようにオープン化しようとしている。すなわちAndroidを搭載した携帯端末は、いずれのキャリアのネットワークにも接続できるし、ユーザーが好きなアプリをインストールして使うことができる。ちょうどPDA(掌サイズPC)に、電話機能を追加した情報端末と見ればよい。これは、2005年頃から国内外でシェアを伸ばしているSmartPhoneの範疇に入る。
Android登場の背景には、GoogleやSkype(eBay傘下)など米IT企業の強力なロビー活動によって実現した、「無線インフラのオープン・アクセス・ルール(Open Access Rules)」がある。これは来年早々にも行われる「700MHz帯」の競売を前提にしている。米国では2009年に、テレビ放送の方式がアナログからデジタルに切り替わる。それに伴い国庫に返還されるアナログ放送波(700MHz帯)が、2008年1月、競売にかけられる。この競売への入札を希望する企業に対し、その条件として提示されるのが「オープン・アクセス・ルール」で、それは以下の2項目からなる。
① 落札した電波で作るモバイル・ネットワーク(無線インフラ)には、そこで使う端末の仕様やアプリケーションに関して、いかなる拘束も課してはならない。
② これまで携帯電話端末は一つのキャリアでしか使えなかったが、これをどのキャリアのサービスでも利用できるようにする。
こうした環境を整備した上で、Googleは満を持してAndroidを投入してきた。Googleは12月3日までに、700MHz帯の競売への入札を宣言すると見られるが、仮に落札に成功した場合、その電波を使って、いずれはキャリア事業に進出する公算が高い。これと並行して、キャリアやベンダー(端末メーカー)を説得して、Androidを搭載した携帯端末を作らせ、その上で丁度Web2.0のような多彩なモバイル文化を開花させる。それによって、多数のユーザーと広告主を惹きつけ、新たなモバイル広告市場を開拓するのが同社の最終目標だ。
GoogleはAndroid発表と同時に、「Open Handset Alliance」というコンソーシアムを結成し、欧米や日本の主要キャリアを含む33社を自らの陣営に引き込んだ。これに対抗する形で米主要キャリアの一つ、Verizon Wirelessも2007年11月27日、自らのネットワークをオープン化することを明らかにした。それによれば、同社のネットワークには消費者が自由に購入した多様な端末を接続でき、そこに搭載されるアプリも消費者が自由に選べるようになる。これによって米モバイル産業が、オープン化に向かう流れは決定的になった。
一方、日本のモバイル産業も同じ方向に進み始めている。総務省主催のモバイルビジネス研究会では、「オープン型モバイルビジネス環境」として以下の3点を提言している。
① ネットワークの別を問わず、自由に端末を接続して利用できる環境
② 端末に自由にアプリケーション等を搭載して、利用者が希望するサービスを自由に選択できる環境
③ 端末・通信サービス・コンテンツ等のそれぞれの価格・料金が利用者にわかりやすく提示されている環境
以上の提言は、米FCCのOpen Access Rulesと良く似ている。その理由は日米のモバイル・ビジネス環境が非常によく似ているからだ。両国とも、大手キャリアが垂直統合型ビジネス・モデルによって、携帯端末の仕様、モバイル・インフラからアプリケーションに至るまで、ほぼ完全にコントロールしている。これは携帯電話産業の成長期には適したビジネス・モデルではあるが、成熟期に入った現在では、様々な面で齟齬をきたしつつある。こうした問題意識が日米で共通しているため、それに対する開放政策も似通ってくるのだ。
しかし日米両国のモバイル・オープン化政策は、その実効性の点で違いがある。米FCCのOpen Access Policyは「700MHz帯の競売への入札条件」という形で、その実現に強制力を持たせた。ところが日本のオープン化政策は、今のところ総務省からキャリアへの要請という形でなされ、その内容も販売奨励金制度の見直しなど、間接的な施策にとどまっている。こうした日米政策当局のモバイル・オープン化に対する取り組み方の違いは、今後両国のモバイル技術格差を短期間で縮めることにつながりかねない。
これまで日本のモバイル産業は、高速インフラと多彩なアプリケーションにおいて米国をリードしてきた。しかしPDC以来の方式の壁などに阻まれ、国際競争力の点で、そうした技術的優位性はほとんど意味を持たなかった。つまりは国内競争が全てだったのである。だが今後、日米、特に米国のモバイル・オープン化が進めば、国際競争力の視点が重要となってくる。なぜなら卓越したアイディアと高度な技術力を備えた、シリコンバレーのIT企業がモバイル領域に大挙して押し寄せる可能性が出てきたからだ。
いわゆるWeb2.0と呼ばれるPC系オープン・カルチュアが世界的影響力を持ったように、シリコンバレーがモバイルに注力すれば、その技術やスタイルは世界に波及する公算が高い。GoogleのAndroid投入は、その前兆である。かつてMicrosoftはWindowsによって、PC産業における世界標準の座を勝ち得た。これと同じことを、Googleはモバイル産業でやろうとしている。今回そうなることを嫌うなら、日本が先にモバイル・オープン化を進めて、世界標準の座を勝ち得るしかないだろう。

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