Title: | パナソニックのプロダクトデザインが変わった~人と世の中の変化を捉えたものづくり |
Updated: | 2024/03/27 |
Category: | その他 |
Areas: | 米国 欧州 |
パナソニックのプロダクトデザインが変わった~人と世の中の変化を捉えたものづくり
近年魅力を増すパナソニックの商品。どれも、家電業界でこれまで見過ごされてきた課題にフォーカスすることで支持を集めている。3回に渡る本ケーススタディ(事例研究)のシリーズでは、このような商品を生み出すパナソニックの原動力に迫る。第1弾となる今回は、プロダクトデザインの観点から、「モジュラーパーソナルケアシステム」(2022年、欧州と米国で発売)を題材に、同社の商品開発プロセスを紐解いた。
本商品は、共通ボディと、交換可能な5種類のヘッド(シェーバー、鼻毛カッター、髪・ヒゲ・体毛用のトリマー、電動歯ブラシ)から成る、従来の製品の枠を越えたオールインワン機器だ。ヘッドは必要なものだけを購入できるため、ユーザーにとっては経済的で、環境負荷を減らすこともできる。発売後は、世界三大デザイン賞の一つである「iFデザインアワード2023」の金賞を獲得するなど高評価を得た。
本商品のコンセプトは「必要なときに必要なものを買える、そのためのモジュール式デザイン」だ。コンセプト作りに向けて実施した欧州市場調査では「スタイルの多様化」という重要トレンドを捕捉。また、欧州における同社の課題でもあった「普及価格帯商品の提供」と「ブランドロイヤリティを高めるタッチポイントの創出」をこの商品で目指した。そして近年の欧米市場の重要な価値観である「サステナビリティ」を土台とし、上記のコンセプトを練り上げていった。
デザインのプロセスでは、同社が蓄積してきたノウハウを活用し開発コストを圧縮することで、普及価格帯を堅持。並行して、各機能の共存や、全パーツにおいて統一されたアピアランスの実現のための試行が繰り返された。試作機を使った受容性調査では、ユーザーからのフィードバックだけでなく、使う様子を観察することで改善すべき点を探し、デザインの細部を詰めていった。
販売においては、コンセプト通り、自社サイトでもアマゾンのサイトでも、ユーザーが必要なものだけを選んで購入できるようにした。SNS広告や縦型動画を積極展開したこともあってか、20代の購入が多く、他の一般製品とは異なる傾向となった。
本商品の方向性を決めるにあたって重要だったのは、「スタイルの多様化」と「サステナビリティ」を基本指針として据えたところではないかと考えられる。この商品開発では、多くの企業が採用する「20代のニーズ」といった安易な視点ではなく、多様化する個々のニーズと、その中にあっても普遍的な「サステナビリティ」という価値観の両立を追求し、このコンセプトを体現する卓越したプロダクトデザインを実現した。人々と社会の変化を観て構想することが、これまで見過ごされがちだった課題を解決するような製品開発の要所になっているのではないだろうか。
こうした視点の転換は、例えば「意味的価値」というコンセプトから理解することができる。カタログスペック上の数値の追求から、数値化しにくい精神的な満足の追求へのシフトが、パナソニックにとって新たな市場を開拓したとも考えられる。意味的価値以外にも、経営戦略、組織、ビジネスモデルの観点など、分析の視点はたくさんある。読者諸氏にとって、本ケーススタディがさまざまなインスピレーションの源泉となることを願っている。