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Title: 米国における教育のデータ駆動化に関する調査報告書(第三部)
Updated: 2025/03/31
Category: その他
Areas: 米国 英国

米国における教育のデータ駆動化に関する調査報告書(第三部)

第1.1版に更新しました。
日本国内では、社会全体のデジタル化に向けた機運が高まっており、教育分野では、2019年に文部科学省が「GIGAスクール構想」による教育のICT化を打ち出し、学習や指導の履歴や成績の推移などのビッグデータを蓄積・分析することで、個々の生徒の学習状況のより深い理解、教育現場の知見の可視化、教育政策への反映などを目指している。
本調査報告書では、第一部、第二部に引き続き、米国および英国におけるコロナ禍の施策効果事例、教育分野における生成AIの影響と活用事例およびトランプ政権発足によるAI規制および教育に関する動向について報告する。

(1) 米国はコロナ直後に生徒の成績が数十年前のレベルまで大きく落ち込み、特に人種別では白人、アジア系に比べ黒人・ヒスパニック系の遅れが顕著であった。これに対し、連邦政府は2020年以降支援金を投じ、2022年3月バイデン政権のAmerican Rescue Plan(ARP)等において、教育分野に1,900億ドル(約28.5兆円)の支援金を投入。ARPを活用した学力回復のための施策として、過去の検証で効果が確認されていたHigh-Impact Tutoring(学校のカリキュラムと連動した少人数の個別指導)を推奨。完全オンライン指導を導入したテキサス州や、対面指導を導入したニュージャージー州などで大きな効果を上げている。また教育省は、2023年1月以降Raise the Barという大きな教育目標を掲げ、上記個別指導に加え授業数の増加や教員不足解消などの取り組みを進めデータ追跡を継続している。
(2) 英国でも米国同様にコロナ直後に生徒の成績が大きく落ち込み、英国政府は2020年11月以降Recovery Packageにおいて、教育分野に35憶ポンド(約5,005億円)の支援金を投入。その中で経済的に支援が必要な生徒を対象としたNational Tutoring Programme(NTP)などを推進。コロナ前の成績への回復に必要な月数が小学校・中学校で大きく減るなどの効果を上げている。
(3) ChatGPTの登場後、悪影響の可能性を理由に当初利用を禁止した学校や大学が多かったが、懸念事項に留意した上での積極利用の流れとなり、学校現場での活用が進み始めている。また、生成AIの健全な利用のための設計・導入指針となるガイダンスがUNESCOや各国政府・州政府などで策定されている。民間レベルでは、生成AIを活用したツールは既に多くの教育企業により提供されており、生徒の個別学習支援(AIチューター)、教員の授業計画/教材作成・採点/フィードバックツールが主流となっている。2024年2月に実施されたアクセス数ベースの生成AIツール利用実態調査では、Top10の中に教育分野に関連するツールが3件入った。国家レベルでは、生徒の成績向上や教員の作業量削減効果などの指標が重要になるが、英国教育基金財団(EEF)では2024年7月、教員のChatGPT利用による作業量削減検証を実施し平均で約30%の削減効果を示した。また、米国教育省 教育科学研究所(IES)では、重要課題への生成AI活用において、文章だけでなく、音声・画像・動画などを扱うマルチモーダル機能を強化したAIチューターの開発・実証を推進する4つのU-GAINセンターを設立。英国科学イノベーション技術省(DSIT)では、2023年9月より生成AI学習用データの共有化を推進。今後は、生徒の成績向上効果も含めた教育現場での有効性を一歩一歩検証・定量評価し、エビデンスの蓄積を進めると同時に、教員にしかできない指導との役割分担を考えることで現状の様々な課題解決が期待できる。
(4) 2025年1月20日 アメリカ合衆国 第47代大統領にドナルド・トランプ氏が就任し、前バイデン政権のAI規制に関する大統領令撤廃や教育省の廃止を求める動きを進めており、今後も注視する必要がある。

第一部はこちらからダウンロードできます。
https://rp.kddi-research.jp/article/GN2021001
第二部はこちらからダウンロードできます。
https://rp.kddi-research.jp/article/GN2023001

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