研究員がひも解く未来

研究員コラム

好みの服は似合う服?~AIが導く、理想のコーディネート

7月に相川七瀬さんの音楽ライブに初めて参加した。J-POPのロックが好きで、若い頃は、公式グッズのTシャツを着込んで、PRINCESS PRINCESSのライブに足繁く通っていた。ところで、50代半ばを過ぎた今、どのようなファッションでライブに行けばよいか悩んでいた。若い頃好きだったテイストの服が年齢とともに似合わなく感じてきたが、店舗に出向いて相談するのも気恥ずかしく面倒である。こうしたときにファッションセンスが高い人に気軽に相談したいのは私だけではないだろう。どうしたものかと思案していたところ、AIを活用して利用者のファッションを診断するサービスがあることを知った。これらのサービスのうち、男性も対象にした図表1の3つのサービスを試すことで、今の自分にも七瀬さんのライブにもふさわしいファッションを着こなすことができた。本コラムでは、実際にライブに着て行くファッションを決めるまでの過程を振り返るとともに、ファッションコーディネートの今後の方向性について考えてみた。

サービス名サービス概要
DCOLLECTION[1]ドラフトが提供するメンズファッション通販アプリ。AIが利用者の顔の特徴を元に、似合う服を診断する。
WEAR[2]通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZOが提供するファッションコーディネートアプリ。利用者が選択した好みのコーディネートを元に、AIがファッションの「好みのジャンル傾向」を診断する。
XZ(クローゼット)[3]STANDING OVATIONが提供するオンライン・クローゼットアプリ。利用者が保有している服や靴の情報を登録する。それらの情報を元に、AIがコーディネートを提案する。

図表1:試行した3つのファッション診断サービスの概要
出典:各社情報を元に筆者が作成

AIでコーディネート

まずメンズファッション通販アプリ「DCOLLECTION」で、私の顔パターンを診断したところ、「ワイルド」という結果となり、似合う服のポイントとして、「襟付きのアイテムを取り入れる」「ジャストサイズを選ぶ」「ハリや光沢感があり、適度な硬さの素材を選ぶ」が提案された(図表2)。提案されたコーディネートの写真を見てみると、少々堅くライブに着て行くには向いていないように思えた。

図表2:似合う服の診断結果の一部
出典:筆者がDCOLLECTIONで試行

そのため、次にファッションコーディネートアプリ「WEAR」も試してみた。アプリに掲載されている多数のコーディネート写真から自分の好みの数枚を選んだ結果、私の好みのジャンル傾向として、「少々アクティブなシンプル」が診断された。そのジャンル傾向は、「シンプル」(45%)、「アウトドア・スポーツ」(30%)、「ストリート」(25%)の3つの要素で構成されていた(図表3)。提案されたラフで動きやすそうなコーディネートを見てみると、いずれもライブに適しているように感じた。また、自己表現や個性を重視しているストリートファッションも、ロック文化に通じるように思えた。

図表3:好みのジャンル傾向の診断結果の一部
出典:筆者がWEARで試行

さらに、私がすでに所有している衣類や靴を活かしてWEARが提案したコーディネートをできるか検討するため、オンライン・クローゼットアプリ「XZ」に所有している衣類や靴の写真を登録した。XZには、AIがそれらの衣類や靴を組み合わせて、その日の天気や気候に合うコーディネートを提案する機能がある。WEARやXZの提案内容を参考にして、WEARと連携したファッション通販サイト「ZOZOTOWN」で好みのTシャツを購入してライブに着て行くことにした。Tシャツは、XZに登録したジーンズやスニーカーと組み合わせてライブにふさわしいと感じるものを選んだ。

図表4:XZに登録したライブ当日のコーディネート
出典:筆者がXZで試行

好みのファッションと似合うファッション

今回、3つのサービスを試した結果、好みのファッションと似合うファッションの提案は異なるものであることに気づいた。そこで、両者の提案について比べてみた。

好みのファッションを提案するサービスは、通販サイトでのAIを用いた商品画像の検索機能から発展してきたことが分かった。以前からファッションブランドの英ASOS[4]や通販サイトの米Amazon[5]では、自社のモバイルアプリにこの機能を搭載していた。それらの利用者は、アプリに好みのファッションの写真をアップロードすることで、その機能によって似たファッションの商品を検索し購入できた。また、ZOZOTOWN[6]でも、利用者は、サイト上で好みの商品を選んで、その商品画像の隅にあるアイコンを押すだけで、同様の機能によって似た商品を見つけられる(図表5)。WEARも、利用者の好みのコーディネート画像を元に好みのジャンル傾向を推定することで、アプリに掲載されているコーディネートの中から利用者の好みに近いものを提案している。このように、これらのサービスではAIの画像認識機能を活用し、利用者の嗜好を明らかにしている。

図表5:好みの商品による似た商品の検索結果
出典:筆者がZOZOTOWNで試行

一方で、似合うファッションを提案するサービスは、AIを用いて利用者の身体的な特徴を判定し、利用者に似合うように衣類の素材・色・形・パターンを組み合わせている。DCOLLECTIONでは、顔パターンの診断結果を元に、利用者に似合うコーディネートを導き出している。その他に、骨格診断の結果を元に、利用者に似合うファッションを提案するサービスもある。パルは、同社の通販サイト「パルクローゼット」にてAIを活用した女性向け買い物サポートサービス「NIAU AI」を提供している。サービスの機能のうち「AI骨格診断サービス[7]」では、スマホで撮影された利用者の写真を元に骨格タイプを判定し、そのタイプごとに似合う商品やコーディネートを提案している(図表6)。これらのサービスは、AIの画像認識機能を活用して、利用者の身体的特徴に基づいたファッションを導き出している。

図表6:AI骨格診断サービス利用のための写真撮影
出典:パルWebサイト

コーディネートの今後の方向性

今回、AIの画像認識機能を用いたファッション診断サービスを利用することで、私自身が自分の好みやその場にふさわしいコーディネートを把握し、納得できるファッションでライブに参加できた。

ファッション診断サービスはここ数年のうちに、好みのファッションと似合うファッションの提案をさらに精緻化していくと考える。人々は、曖昧な自らの嗜好について理解を深め、自分の身体的特徴を客観的に把握していくだろう。そして、自分の嗜好と身体的特徴の診断結果を組み合わせることで、好みの衣類を購入し、その場にふさわしいコーディネートを、自分で実現できるようになると考える。これにより、衣類を購入する際の基準が明確になり、不要な買い物を減らすことも期待される。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 田中実

◼️関連コラム
AI旅行プランナーが導く、家族の新たな体験(2024-07-04)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/5237

ぼっちでグループワークをやってみた(2024-03-11)
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/5066

◼️参考文献
[1]DCOLLECTION Webサイト
https://www.clubd.co.jp

[2]WEAR Webサイト
https://wear.jp

[3]XZ Webサイト
https://xz-app.jp

[4]Techable「オンラインショップには絶対便利!ASOS、アプリに画像検索機能を追加」(2018/4/28)
https://techable.jp/archives/75721

[5]ITmedia「Amazon、気になる服の写真から類似する服を検索・購入できる「StyleSnap」機能を公式アプリに追加へ」(2019/6/6)
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/1906/06/news077.html

[6]ZOZOニュースリリース(2019/8/26)
https://corp.zozo.com/news/20190826-8586

[7]パルWebサイト
https://www.palcloset.jp/shared/pc_pal/event/palcloset/2024/niauai