私事ですが、ニューヨークで一番好きな建物はグランドセントラル駅です。昔々の仕事場と住まいのちょうど中間にあったので徒歩通勤の行き帰り、朝な夕な、あるいは深夜にその前を通っていて、高層ビルが立ち並ぶ中でなんともいえぬ荘厳なたたたずまいに魅せられてしまいました。

で、そのグラセンについての2時間にも及ぶ歴史ドキュメンタリーを、ネットでたまたま発見、思わず見ちゃいました。アメリカのNHKみたいな存在であるPBS(Public Broadcasting Service=356局のネットワーク)のサイトにあったのです。グラセンが19世紀後半、鉄道王、コーネリアス・バンダービルトによって作られたもの、という程度は知っていましたが、このドキュメンタリーによると、当初は今のグラセンの南側に広大な操車場があり、

蒸気機関車が地上を走っていて煤煙を撒き散らすだけでなく、騒々しく、1日おきくらいに路上で人をひき殺す事故が起きていたとんでもない存在だったそうです。市民の不満が高まるなか、10数人が死亡する大事故が1902年1月に起き、ついに操車場は接収、蒸気機関車の運行も禁止という事態に追い込まれ、やむなく今のパークアベニューの地下に線路を敷き、電気機関車を走らせることになったそうで、グラセンの駅舎の建て替えも含め全てが完成したのが1913年のこと。(ちなみに、東京駅の赤レンガ駅舎は1914年完成です) 蒸気機関車の地上走行反対キャンペーンを張ったこともあるニューヨークタイムズは「米国で最も偉大な駅だけでなく、世界一の駅だ」と絶賛したとか、ま、いろいろなエピソードが盛り込まれています。

私は英語が得意ではありません。とくにヒアリングがだめです。それでもこのドキュメンタリーの幾分かを理解し、楽しめたのは、目で映像を見たことに加え、ナレーターの朗読、関係者の発言の全てを文字化した記録をサイト上で読めたからです。もちろんこのドキュメンタリーが例外的にそうしているわけではありません。これは<American Experience>という番組枠の一つですが、この番組枠の作品はすべて内容が文字化されています。しかも、このドキュメンタリーの作品専用ページには<Teacher’s Guide>なるページがあり、教師がこの作品を教材にしていかに児童生徒に考えさせればよいかなどが詳しく説明されています。

日本で言えば「NHK特集」のような時事、社会問題を扱う<FRONTLINE>や科学番組も同様です。FRONTLINEには<Teacher Center>というページがあり、そこにはこうあります。<A collection of lesson plans and activities to accompany FRONTLINE documentaries in the classroom.>ご覧いただければわかりますが、その詳細な授業プランなどは驚くばかりです。見逃した優良な番組を無料で見せるだけでなく(それならDVRがあればいい!)、文字や縦横無尽なリンクで理解を確かにしたり、教材にするというPBSのやり方はテレビ局のネット活用としてとても進んでいるように思えます。ま、それも、まともな作品を提供しているという自負あってのことでしょうけれど。

さて、ようやく本題。昨年12月からサービスが始まったNHKオンデマンド。利用してるって話を周りでもとんと聞かないと思っていたら、利用者はまだ1万4千人どまりとか。番組が限られる上に有料なのに、PBSのような文字化したり、付加価値を付けるというような工夫やサービスは一切なし。PBSの足元にも及ばない貧弱なサービスでは当然の結果でしょう。通信と放送の融合なんて日本じゃまだ絵空事ということでしょうか。

実はPBSのサイトにアクセスしたのは、過去の番組をノーカットで無料視聴出来る<PBS Video Portal>のベータ版を開いたというニュースを見てのことでした。三大ネットワークのサイトやNBC UniversalとNews CorporationのジョイントであるHuluなどではドラマや人気番組のほとんどを無料で提供していますが、日本からアクセスすると予告編以外は著作権の関係で<not available>という悲しい表示になるのが殆どです。PBSの場合もベータ版のせいかサイト内が混乱気味で、新ポータルにアップされている作品は限られているうえ(将来は数千時間分をここ1箇所に集めるとプレスリリースに書いてます)、<not available>のケースが殆どです。しかしそこであきらめず、ポータルと関係なしに各番組枠のページに行くとネットで見られる作品が相当数ありますのでお試しください。