最近はちょっと露出が減ったかも知れませんが、ダン・ギルモア氏は、かってサンノゼマーキュリー紙のITコラムニストとして、マスコミ記者としてはおそらく初の記者ブログを書き綴ったことで有名です。インターネットの台頭でマスコミは行き詰まり、まともなニュース報道が行われなくなるのは確実だとしてブログを駆使したGrassroots Journalism、Citizen Journalismの必要性を唱え、2005年に著した「ブログ 世界を変える個人メディア(原題 We the Media)」が話題になりました。(著者サイン本を所持!笑)

で、そのギルモア氏が自身のブログMediaactivebreathtaking(息の呑むような)とかmind-boggling(唖然とする)というような単語を使って攻撃しているのが10月6日の私のエントリーで紹介した非営利オンライン報道機関ProPublicaのSteiger編集主幹のサラリーのことです。彼を含む幹部の給料一覧はこれです。このほか各自が2万$内外を受け取っています。名前のすぐ右側にある<40.00>というのは週当たり労働時間です。

ProPublica幹部給料表

米国税庁(IRS)に提出された原資料はインターネットのお陰で、ここで見ることが可能です。

その額が57万$と高額なことについて、私はProPblicaが<いかに力があるかの象徴>ととらえましたが、ギルモア氏はそうは考えていません。Steigerに次ぐポストにあるEngelberg編集長も45万$以上受け取っていることなどをとらえ、「たとえ法的に問題がないと言っても、使命を決定的に損なうようなメッセージを発することになる」「彼らはやりたい放題だが、こんな小規模NPOの人間に対するサラリーとして正当化できるわけがない」「結局、これはProPbulicaを損なう。助けにはならない」などと激昂調です。

ProPulicaの財務担当が「これでもSteigerがウォールストリートジャーナル(WSJ)時代に得ていたサラリーより相当低い」などと反論しても「それがどうした。WSJはProPublicaと比較にならない大組織だし、なによりNPOじゃない」とにべもありません。

で、SteigerがWSJでそんなに高給だったかどうかは確認できませんが、ついでにアメリカの新聞社トップの稼ぎをちょっとだけ調べてみました。たとえばニューヨークタイムズカンパニー(NYTの発行元)のザルツバーガー会長は240万$、ロビンソン社長は558万$ですが、WSJの親会社ニューズコープのマードック会長はなんと2000万$! ワシントンポスト社のグラハムCEOは82万$、ジョーンズWP会長は151万$。新聞業界はずっと不景気で、経営者はNYTなど最近は経営難から記者減らしに躍起ですが、日本の大新聞社長の10倍は貰っているNYTロビンソン社長の給料だけで記者100人の首切りが回避できそうです。経営が苦しい苦しいといいながら新聞経営者は結構、強欲なんですね。

面白いことに、記者減らしを進めているNYTの日曜版付録ニューヨークタイムズマガジンの売り物であるカバーストリーをProPublicaが肩代わりするという事件が最近、起きています。これは8月30日号のカバーです。このカバー写真に続くStrained by Katrina, a Hospital Faced Deadly Choices と題する記事は、医学博士でもあるProPulicaのSheri Fink記者が1年かけて取材、執筆した1万3000語に及ぶ長大なもので、4年前のカトリナ台風で大被害を受けたニューオーリンズで、被災者でごった返したメモリアルメディカルセンター病院の悲惨な状況を検証した記事のようです。(長すぎるので英語力プアな当方は断念) もちろんProPulicaのサイトにも3日前の日付で掲載されていますし、Fink記者のインタビュービデオはここにあります。

NYTマガジンのカバーストリーには通常4万$の経費ををかけているそうですが、NYTは1$の取材費用をもかけることなく、ProPublicaに言わせれば40万$もかかったと言っている力作を読者に提供できたのです。外部の有力媒体に惜しげもなく調査報道記事を無料で提供出来るこの”体力”こそProPublicaを非営利オンライン報道機関の雄にしているわけですが、それを使わざるを得ないということが、米大新聞の体力の衰えと裏腹なのでしょう。ただ、幹部には高給を支払う一方、一切の広告も取らず、ひたすら寄付に頼る体制がいつまで持つのか。ギルモア氏の”絶叫”を聞いてから他人事ながらちょっと心配になってきました。