2009年7月に、佐々木俊尚さんが「2011年 新聞・テレビ消滅」という本を書いて話題になりました。幸いなことに新聞はその2011年をなんとか生き延びて新年を迎えたわけですが、新年早々、今朝の読売新聞の解説面に、フランスの新聞が厳しい状況にあることを紹介し、「新聞淘汰の時代、身が引き締まる」と自戒しているコラムが掲載されていました。

パリ支局の三井美奈記者が執筆した「ル・モンド瀬戸際の改革」と題するもので、67年の歴史を持つフランス・ソワールが12月に紙の発行を止め、ネットだけになり、西欧を代表する高級紙ル・モンドも、経営陣を入れ替え改革に乗り出しているが、合理化への労組の反発でストや新聞不配が相次いでいて瀬戸際にあるそうです。そこで同紙の社長が淡々と語ったという一言が印象的です。「仏全国紙の半分は消える」

そこで思い起こすのが、昨年末に、米国南カルフォルニア大学アネンバーグスクールが公表した「IS AMERICA AT A DIGITAL TURNING POINT?」というレポートに関するリリースです。(ホンモノは今年早々に発行するとのこと)そこには、過去10年に亘るデジタルトレンドの研究の知見として9項目が挙げられていて、簡潔なコメントがついているのですが、その5項目目が衝撃的でした。<Most print newspapers will be gone in five years> 5年以内に殆どの紙の新聞はなくなる。

で、それへのコメントでは、生き残れるのは最大か最小の両極端だとし、最大の方ではニューヨーク・タイムズ、USAトゥディ、ワシントン・ポスト、ウォール・ストリートジャーナルの4紙だけ、最小の方ではローカルな週刊新聞だけと断定しました。(その解説はいずれ発行されるレポートに詳述されるのでしょうが、ここにはありません) そして、「死にかけている新聞がオンラインに移行しても、うまくいくかどうか、ニュースの質はどうなるかなど多くの問題がある」とのコメントも付け加えています。

思えば、2009年、米国新聞業界は死にかけました。(佐々木さんの本はこの年に書かれました)共に100年以上の歴史を誇るロッキーマウンテンニュースとシアトルポストインテリジェンサーが廃刊となり、ボストン・グローブとサンフランシスコ・クロニクルは、労働条件の大幅切り下げと大量レイオフを労組が受け入れることでようやく生き延びました。そして、この年に新聞社の仕事を失った人は1万5千人に及びました。全米の記者は2007年で5万2600人という報道がありましたから、大変な減少です。昨年に新聞業界を去った人は、Paper Cutsによれば公表数だけですが3,775人。小康状態のように見えますが、これは削減に次ぐ削減の上でのことですから重い数字です。

新聞の発行部数も毎年10%づつ減少しています。米新聞業界の悲惨な状況をウォッチしているNewspaper Death Watchは「これは今後も加速する」とし、もうビジネスモデルは崩壊したと断言します。「新聞読者の平均的な年齢は56〜60歳で、この年齢層は今後、どの階層の人より減少率が高い。おまけに高齢者は広告主からみて魅力的ではない」とも指摘します。ですから、「5年以内というのは悲観的すぎるかもしれないけど、10年以内ならアネンバーグセンターの予言が当たるのは確実だ」と書いています。

全米には1400もの日刊紙があります。それが全部潰れるというわけではありません。今後、冒頭のフランス・ソワールのように、紙の発行を止めて、オンラインのみに移行して生き延びを図る新聞社が徐々に増えていくのでしょう。そこで、ひとつ耳よりな話があります。昨年春からオンライン課金に踏み切ったニューヨーク・タイムズ(NYT)のケースです。コロンビア・ジャーナリズム・レビューの元ウォール・ストリートジャーナル記者Ryan Chittum氏は自身のブログで、秋に公表されたNYTの決算数字を見て、「NYTはデジタル収入で編集局を賄える」と推定しました。

どういうことかというと、NYTのオンブズマン報告によると2007年のNYT編集局の予算は2億ドル余りだったそうです。その後の大幅なレイオフや経費節減で、予算規模は2億ドルを大きく下回っているはずと想定します。一方で、親会社NYTカンパニー全体のニュースグループが得たデジタル収入は2011年に2億3500万ドルだろうとし、うちNYT単体でその3分の2を稼いでいるので1億5500万ドルになる。これに加えて有料読者からの収入が6320万ドルを見込める。計2億1000万ドル以上になるので、編集局費用を十分カバー出来るというわけです。

つまり、ネットコンテンツの有料化を進めれば、紙の新聞を止めても大丈夫、他の新聞社も真似すればいいとChittum氏は主張します。でも、仮ににそれでうまくいくとしても(そうとも思えませんが)、印刷、配送、配達などのスタッフが大量に職を失います。それもまた辛い話です。日本の新聞経営の状態は米国ほど酷くはなくても、紙の新聞離れという基調は同じ。読売新聞が冒頭のコラムを載せた事自体が、危機感の表明でもあるのでしょう。まさに三井記者ではありませんが「身の引き締まる思い」です。せめてNewspaper Death Watchの見方に、さらに5年足して15年ほどはもってほしいものですが、果たして・・・・。