昔々から、ブンヤはつぶしが利かないって言われてました。あんまり、その意味を深く考えたことはありませんが、要するに、たいした専門知識を持ち合わせないのに、若い頃から社会正義みたいなことを振りかざし、他人に頭を下げられないヤな奴なので、一般企業では使い物にならないってあたりでしょうか。

しかし、ジャーナリズムを学び、実践してきたからこそ、起業家として成功した、という話を読むと、そう、卑下する必要もないのかな、と思わされました。

それは、小型飛行機を経営者などに売っているCharlie Bravo Aviationという会社のCEO Rene Bangledorfさんのケースです。

Reneさんは1970年、アトランタ生まれの43歳。この彼女を紹介した昨年の記事によると2008年にテキサス州オースチンに会社を興し、その年は1機しか売れませんでしたが、2011年には23機も売ったそうです。一機の値段は100万ドルから3,350万ドルとか。

飛行機業界というのはマッチョな世界で、女性経営者というのは稀有な存在だとのことですが、Fast Companyの最新の記事によると、わずか5年ほどで、業界売上の90%を占める30〜40社のうちの一つにまでのし上がったとのこと。そこに、彼女のジャーナリストとしてのスキルが生きている、とこの記事の筆者は主張しているのです。

その筆者は、 strategistを名乗るKaihan Krippendorff氏。経営者や会社幹部を相手に戦略的スキルなどを伝授しているコンサルタントのようです。彼によると、ジャーナリストとは、ネタを見つけ、情報源を広げ、情報を広く集め、それが真実かどうかをいかに確認し、そして、そうした事実をいかに魅力的な記事にまとめ、素早く読者に提供出来るか、だとします。

それと、飛行機販売のキモも同じだというのです。航空会社のチャーター機や飛行機共有クラブの飛行機を頻繁に利用していて、いっそ買った方がいいと思われる経営者などを探す(ネタの発見)。そうした人のニーズ(どこへどういうルートで飛び、給油はどこで可能かなどの)を調べあげる(情報収集)。次いで、彼女がネットワークしている情報源の飛行機専門家に、クライアントにふさわしい、売りに出ている機種を探してもらい、その機体の履歴や程度についても確認する(事実確認)。そして、そうした事実を、魅力的なストーリーに仕立てて売り込む(記事作成)。これらをたった4日間の短期間で仕上げる(締め切り厳守)。

つまり、彼女の経営者としての才覚は、若い日にジャーナリズム教育を受け、実践してきたことが役だっているのだと。十分「つぶし」が効いたわけです。

その彼女の具体的な経歴については、Fast Companyの記事ではあまり触れていませんが、調べてみると、Reneさんは、全米大学新聞ランキングで堂々のトップに輝くThe Lanternを発行しているなど、ジャーナリズム教育で名高いオハイオ州立大学でジャーナリズムを学び、一時は地元紙で働いた経験があり、オンライン雑誌に寄稿していた時期もあるようです。

しかし、ジャーナリストの給料の安さや、新聞の先行きに見切りをつけてしまいました。そして彼女はマーケティング会社に転職します。つまり、ジャーナリストとしては全うしませんでした。そこは残念なことですが、ジャーナリズム魂は生きていた、という話です。

そこで、新聞記者は意外につぶしが効くかもしれないというのは、メデタイけれど、業界の先行きはとっても怪しそう、ということで、これからジャーナリストを志す人が減っちゃうんでしょうか。ところが、全くそんなことはない、とジャーナリストを元気づけている人もいます。人気ニュースサイトBusiness Insiderを主宰するHenry BlodgetのJournalism Has Entered A Golden Ageという記事です。

これは、彼がCNNの番組で語ったことをまとめたもののようで、長いのですが、なぜ、ジャーナリズムが黄金時代に入ったといえるのかという主張の要点だけを記録しておきます。

・私の主張に違和感があるかも知れないが、私が言ってるのは新聞ビジネスじゃなくてジャーナリズムについてだ。

・デジタル、ネット時代になって、かってより、情報量は圧倒的に増えた。プロのジャーナリストが発信する情報量も増えた。そして、個々のジャーナリストが地球上の全ての人にリーチ出来るようになった。

・伝統的な報道機関の苦境は大げさに伝えられている。テレビニュースは拡大しているし、まともな新聞、雑誌は健在だ。その一方で、デジタル報道機関は爆発的に増えていて、そこでは才能あるジャーナリストが十分に雇用されており、これからも増える。

・今日のジャーナリズムはスペースの制約がなくなり、あらゆるメディアを活用して伝えられる。配信方法も多様になり、モバイルでのニュース収得は24時間可能になった。

・いまや20億人がネットユーザーがfact checkerになっていて、ニュースの正確さが増している。そして、パソコン1台あれば、才能ある人はすぐにジャーナリストとしてデビューできる。

以上がBlodget氏の主張の粗い要約です。ちなみにReneさんがオハイオ大ジャーナリズム学部で学んだのは1988年から1991年でした。インターネットの黎明期、一般にはほとんど知られていない時代です。おそらく、Reneさんもネットについては殆ど学ぶことがなかったでしょう。そいういう、いわばアナログ時代のジャーナリストでも、そのスキルがあればReneさんのように転進して成功するケースもある。

まして、今の若きジャーナリストは、ジャーナリズムのスキルに加え、デジタルのスキルも身につけています。そのうち「新聞記者はつぶしが利かない」というフレーズは死語になることを期待しましょう。