大リーグ、ヤンキースの田中将大投手が登板した対ブルージェイズ戦。多くの方がご覧になったでしょうが、ゲームの流れを変えたのは3回表、ヤンキースの攻撃で、イチローが二遊間に緩いゴロを打ったプレー。

一塁の塁審は「アウト」の判定。しかし、ヤンキースの抗議でビデオ判定となり、結果は「セーフ」に覆りました。このあと、後続にヒットが出て、この回2点を取って逆転。ここからマー君も立ち直ってピシャリと抑え、勝利に繋がったわけです。

一昔前は、審判の判定は絶対で、覆ることなど考えられませんでしたが、いまじゃ、テクノロジーに頼って、あっさり、覆るのだなあと実感。しかし、そこで思い出したのが先月末のニューヨーク・タイムズ(NYT)の記事です。なぜか、ストライク、ボールの判定だけはビデオ判定はしない、とありました。ちゃんと、ビデオ記録は撮っているのに、です。そして、球審の誤審の率はとても高いんだとか

これは、ノースウェスタン大のBrayden King准教授とコロンビア大ビジネススクールのJerry Kim准教授の二人が、ビデオ判定が導入された2008年と翌シーズンの投球記録70万球を分析した結果、判明したもので、近くManagement Scienceという雑誌に公表されるとのことでした。

この雑誌のサイトにはまだ掲載されていないので、以下、両准教授のまとめたものから、さらに要点だけをご紹介します。

大リーグでビデオ判定が行われるのは、ホームランかどうか、ファールかどうか、フォースプレーが成立しているかどうか、などで、ストライク、ボールの判定は球審の裁量に任されています。

でも、実際には、大リーグの全ての球場には、SPORTVISION社製の<PITCHf/x>という高速の追跡カメラ3台からなる装置があり、一球ごとに、球速、ホームプレート上(あるいは外)のどこを通過したか、球の軌道はどうだったかを全て記録しているのだそうです。

で、70万の投球結果を分析したらどうだったかというと、打者がバットを振らなかった時の判定で14%もストライク、ボールの判定が間違っていました。

実際の間違いはどうして起きるか。一つはホームチームに好意的で、ストライクゾーンを広げる傾向があるとか。実際はボールなのにストライクとコールする率は、ホームチームの投球には13.3% でしたが、ビジターには12.7%でした。

また、予想に反して、球審は緊迫した場面で誤審をし易いことも分かりました。具体的には初回の第1球より、同点で迎えた9回裏の方が13%も多く誤審をしているとのことです。

カウントも影響します。3ボール、ノーストライクの場合、ボール球をストライクと誤審するケースが18.6%に達し、逆にノーボール2ストライクのケース、もう一球で三振という時にはストライクゾーンを狭くしていました。

投手の人種がどうかも影響しているようです。球審は白人投手より黒人投手に対しては10%もストライクゾーンを狭くしていました。

さらに、オールスター級の投手には好意的で、オールスターに5回出場した投手と、そうでない投手で比較すると、オールスターの投手には外角の球を16%も間違ってストライクとコールしていました。

両准教授は、これらは意図的でなく無意識にバイアスがかかるのだろうとしていますが、まあ、なんだか日本のプロ野球を見ていても、おなじように感じることが少なくありません。

でも、1球ごとに抗議をうけていたら、試合が進まないから仕方ないのかも。ちなみに、他のプレーでの判定への抗議(チャレンジと言ってました)は1試合に2回までって解説者が言っていました。しかし、70万球もどうやって解析したんでしょう?