約20年前の1995年は、のちに「インターネット元年」と呼ばれることになる年でした。この年の1月の阪神・淡路大震災で「電子メール」の活躍が新聞記事になり、6月には通産省肝いりの「100校プロジェクト」で小中高111施設がインターネットにつながりました。
そして11月。ウィンドウズ95の発売。パソコンが一気に使いやすくなり、一方で、接続プロバイダーが次々登場、料金競争も始まりました。そうした中、10月31日からGIIジュニアサミット95が日本で開かれました。
その内容の大方は記憶の彼方ですが、一つだけ強烈な印象を受けたことがあります。それは3日目に登壇した米マサチューセッツ工科大学(MIT)メディア・ラボの創設者にして所長のニコラス・ネグロポンテ教授の一言です。「今のインターネット利用者は世界で2千万人だが、5年後の2000年には8億人になる」。
その時の率直な感想は「5年で40倍なんてあり得ない!」でした。それが、いまや29億2千万人。世界の人口72億人。赤ちゃんからお年寄りを含めた4割まで普及したというのに、「Next Billion or two」ーーさらなる10億人または20億人ユーザーの獲得を目指す動きが着々と進んでいると知って絶句です。
Next Billionというフレーズを生み出したのは今、最も勢いのあるネットメディアの一つQuarz.comのチームで、次のカンファレンスは来年5月にロンドンで開かれるとのことですが、次の10億人の主なターゲットはインターネット普及率の低い途上国なのは明らかです。。
BRICS諸国でもこれだけ、先進国と普及率の差がありますから、例えばサハラ以南のアフリカ諸国や中東諸国あたりではもっと伸びしろがありそうです。とはいえ、そこに全て快適なインターネット接続が可能な光ファイバーを張り巡らすことや、高速モバイル無線網でカバーするのは莫大なコストが掛かりますし、メンテナンスも大変そうで現実的ではないでしょう。
そこで、今、注目を集めているのが、電気自動車Teslaで世界の自動車業界を先導しているElon Musk氏の衛星ネットワーク構想です。彼の別のベンチャーSpaceX社は、過去5年に宇宙ロケットを9回も打ち上げた実績があり、この9月にはNASAと26億ドルの契約を結び、宇宙飛行士を運ぶSpaceTaxiのテストをするという実績があります。
そのMusk氏が、初期費用10億ドルを投じて、超小型の通信衛星700個を宇宙に配置し、途上国だけでなく、米国やロシア、中国などの文字通りの大国=広い国の僻地でも快適なインターネットを実現しようという計画です。
先のWSJの記事によると、この計画を持ち込んだ衛星の新興企業WorldVu社のGreg Wyler氏は、特注の衛星を作る工場の立地についてコロラド州やフロリダ州のお役人と話し合いをしたということで、現実味を帯びています。
このWyler氏、実はMusk氏に持ち込む直前までは、Googleが支援する、同じく衛星インターネットを目指すO3bネットワークで中心的な存在でした。どういういきさつでWyler氏が離れたかは知りませんが、O3bはすでに4つの衛星を打ち上げているとのことで、Googleもまた、衛星に本気なことは間違いないでしょう。
そして、同じく金余りのFacebookは、インターネット環境を世界中に広げようというinternet.orgをエリクソン、ノキア、サムソンなどとともに設立、その推進にCEOのMark Zuckerberg氏も意欲的です。で、Facebookの方法は衛星でなく、太陽光発電で上空3千メートルほどに滞空する無人機(Drone)インターネットを構想中で、来年にはテスト飛行に入るそうです。
実はGoogleは、衛星だけでなく、FacebookのDroneと同じような高さに風船を浮かべてインタネット環境を作り出すProject Loonという計画も明らかにしています。こちらは、衛星やFacebookのDroneより早く、来月にもオーストラリアで、同国最大手の通信会社Telstraと共同で20基のバルーンを配置し、実証実験に入るとのことです。
思えば、インターネット元年の1995年頃、マイクロソフト社が支援する衛星インターネットの先駆けTeledesic計画が話題となり、アルカテル社とロラール社のSkybridge、MotorolaのCelestriなどなど、幾多の計画が産声を上げたものの、いずれも頓挫しました。
その歴史を振り返れば、Musk氏、Google、Facebookの挑戦の前途は楽観できないものの、かって、ネグロポンテ教授の予言に驚いたほどのことはありません。教授の予言は、たった4年遅れの2004年に実現したのですから。
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