先週、184年の歴史を持つ米国・インディアナ州の地方紙News-Sentinelが印刷を止め、オンラインに移行しました。新聞不況が吹き荒れる中で、もう珍しくもなんともありません。何せ、5年も前に、「米国で最速で縮小している業界」とLinkedInの調査で名指しされたほどですから。

そこで思い起こしたのが、その数日前に有力紙ロサンゼルスタイムズ(LAT)のCEO兼発行人に指名されたRoss Levinsohn氏の契約条件でした。LATは彼の経歴をビデオで紹介していますが、ご覧のような男前の54歳。

Levinsohn氏は大学時代からインターネット、メディアの世界に入り、関わったのはTimeWarner、CompuServe、Prodigy、AOL、AltaVista、NewsCorpなどの著名企業で、21世紀に入ってからはFox Digital、MySpace、さらにベンチャーファンドなどをへてYahooにリクルートされ、2012年には暫定CEOまで登りつめたという赫々たるキャリアの持ち主です。

とはいえ、業界の置かれた状況からすると、示された条件は米国メディアにとってもニュースバリューがあったと見えて、Poynterなどあちこちで報じられていますが、著名なメディアアナリストKen Doctor氏の記事が整理されていて分かりやすいのでそこから紹介します。

これは証券取引委員会(SEC)に提出された書類を整理したものです。まず契約期間は2020年までの3年間。基本給は年60万ドルで4半期毎のボーナスが10万ドルづつで計100万ドル。

会社の業績目標を達成すればこれの166.67%の割り増しボーナス。これが6o万ドルをベースにするのか100万ドルをベースにするのか明確でないとDoctor氏は指摘していますが、いずれにせよ、さらに100万ドル以上がプラスされます。さらに海外で販売されたLATのコンテンツの総売上の10%も追加支給。

また親会社Tronc株を40万株と20万株のストックオプションを供与されます。今の株価は14ドル弱ですから、現在の価値で850万ドル近くになります。これが大きい。頑張って業績が改善すればどんどん時価総額は増える。

3年間で総額いくらになるのか。足し算するのも馬鹿らしいのでやめておきますが、業界に詳しいDoctor氏も記事の中で「業界基準からするとGenerous」ーー気前のいい話だ、と書いているほどです。

この高待遇でLevinsohn氏を招いたのは、氏の華麗なネット、メディア業界での経験と人脈を生かして、LATのデジタル移行を強力に進め、デジタル収入増を図るためであるのは間違いないでしょう。

昨年2月にTribune社の筆頭株主となり会長に就任、社名をTroncとしたMicheal W.Ferro氏もまたデジタルの世界で成功した人物で、Troncの株式総額4億4千万ドルのうち、LATはその価値が4億ドルと見積もられるほどの存在なので、LATの経営改善がそのままTroncの市場価値向上につながると考えているのでしょう。

また、1年あまり前のブログで紹介しましたがFerro会長は、新たな収入源として、海外に7支局を新設、そこからエンタメ情報を集め、シンジケートで世界に販売する構想を打ち出していました。

しかし構想した7支局で実現したのはLATの編集スタッフリストを見る限りメキシコシティとムンバイの2つしかありません。販売シンジケーションの話も聞きません。その実現もLevinsohn指名の理由の一つでしょうか。

こう考えると、大盤振る舞いに見えるLevinsohn氏の契約条件も破天荒でもないのかもしれないという気になってきました。

Levinsohn氏自身、Yahoo暫定CEOになってわずか9週間後に、あのMarissa Mayer氏にそのポストを追われる形になった時に、「理由のない解任特約」などで、時価500万ドル相当の株式、ストックオプションに加え、年140万ドルの基本給、ボーナスを追加支給された大金持ち。このくらいの条件じゃなきゃ動かなかったのでしょう。

Ferro会長、LevinsohnCEOのコンビは、冒頭で紹介したLinkedInの調査で、「最速で縮小した業界」に、「最速で成長した業界」であるInternetとOnline Publishingから乗り込む形。てっぺん業界から最底辺業界への挑戦が見ものです。

日本の新聞社にもデジタルで大成功した人物を社長に招くような動きが出ると面白いんですが。