かって「EPIC2014」という名の未来予測動画がメディア関係者の間で大きな話題になりました。2004年冬から翌春にかけてのことです。

ネットユーザーの個人情報を最も取得できる立場にあるGoogleとAmazonが2008年に合併してGooglezonが生まれ、その圧倒的な個人情報を元に極度にパーソナライズ化したニュースを個々人に届ける時代が生まれると予測したのです。

それが幅広く受け入れられて既存メディアが淘汰される中、2014年には、あのニューヨークタイムズはこのGooglezon支配に抵抗してネットから退出し、エリート層と高齢者向けに紙の新聞だけを出している、というものでした。

なぜ、今どきこのEPIC2014を思い出したかというと、この未来予測動画ではパーソナライズ化したニュース配信に抵抗すると予測されたNYタイムズが、実はこの数カ月にわたってパーソナライズ配信の実験を行なっているとNiemanLabが報じたからです。

記事によると、これはNYタイムズのホームページを訪れた人によって、その見え方というかコンテンツの内容が微妙に異なるということです。

取材に応じたタイムズ紙の編集委員Caroline Queさんによると、ユーザーのサイト内での行動、住んでいる場所、訪問した時間など様々なシグナルに基づいてそのユーザーにふさわしい記事に出会えるような試みをしているとのことです。その結果、グーグル検索が人によって表示内容が異なるように、NYタイムズの画面構成も人によって微妙に異なっている模様です。

一つはビジターがどこからアクセスしているかを考慮します。マンハッタンなどニューヨーク市内かその周辺エリアに住んでいれば市内に関する最近のニュースを何本か見ますが、そうでない人は見ないでしょうから。

割りと気軽な情報提供的なSmart Livingのページでの実験はこうです。そのページにアクセスした多くの人は編集者が選んだ記事を見ます。しかし一部の人はこれまで読んだ記事に基づいて健康や結婚式、飛行機旅行などに関する一連の記事を見るようになっているとのことです。

Queさんは「これは読者個々の関心は多様だという我々の認識に基づく」とし、「全く同じ内容を全員が見るという放送モデルが、読者が我々の記事に触れる唯一の方法ではないはず」と思い切ったことを言っています。

もう一つの試みは、ビジターが前回、タイムズのページを訪れたのはいつだったかを元にホームページを変えることです。例えば、タイムズがとても意欲的な記事を月曜日にアップし、それがある読者に関心のある内容なのに、その読者が週の後半まで見に来なかった場合、本来ならホームページから消えているその記事をパーソナライズしたホームページに残しておくのです。

さらに、どの地域の読者にどの種の記事を見せるかを決めるためにGeotargetingというIPアドレスの解析で読者のアクセス場所を知る手段も使いました。例えば、この夏の日食の際などには、現地の人には関連記事がたくさん見られるように、といったことのよう。

また、細かいことでは、英国の読者向けにはヤードや温度の華氏表示をメートルや摂氏に置き換えて表示しているらしい。

ただし、パーソナライズを推し進める上では重大な課題も現れそうです。よく知られているようにNYタイムズの1面の題字の横には「All the News That’s Fit to Print」という自信満々のモットーが毎日、印刷されています。

これは、言い換えれば「我々の編集局のニュース選択に間違いはないのでみなさん安心して読んでね」ということでしょう。でも、実験の意味するものは編集局のニュース判断を軽んじる方向に進むように見えます。

つまり、パーソナライズを進めることは最終的に「All the News That’s Depend on You」ということになりかねない。編集権の喪失というか放棄ですね。Googlezonに抵抗してオフライン化、紙の新聞だけになるというEPIC2014の見立てとは真逆になってしまいます。

さらに、プライバシー問題などが提起されるリスクも当然あり得ます。まあ、Queさんは “We want to make the experience as graceful and obstacle-free as we can for all of our readers.”と言っておりますが・・・・・