公立高校への進学を熱望しながら、貧困家庭のためにそれもかなわない女子中学生ジュンを軸にした往年の名作「キューポラのある街」を読みだしたせいでしょうか、なんとも落ち着きません。
つい先日、文科省の有識者会議が公表した、大学入試の公平性確保に関する報告書のことです。昨年、騒ぎになった私大医学部の不正入試問題に端を発したもので、「出願表には親の職業、出身校は記入しない」「判定資料には受験生の年齢、性別、出身校などは記入しない」などとあるそうです。
要するに、「テストの成績一本で決めろ。差別につながりかかねない要素は一切、考慮するな」と言っているような印象です。
まあ、高校授業料が実質無償化された現在、小説で描かれた昭和30年代とは違って、映画では吉永小百合さんが演じたジュンのように、経済的な理由で高校進学を諦めるような生徒はほとんどいないでしょう。
しかし、大学、それも一流校、さらに難関の医学部進学を目指すとなると、社会経済的な格差がまだ厳然とあるはずです。東京に住む裕福な上流家庭の子弟は、極端な話、幼稚園段階から進学塾に通います。一流大学を目指すには小学校低学年から塾通いが常識化しているらしいですし。
そういう環境で育った高校生と、進学塾など存在しない僻地や離島の高校生が同じ土俵で戦い、テストの点数だけで合否を決めることが「公平性の確保」だって言えるのか、という思いです。
じゃあ、どうすればいいのか。答えは難しい。でも、米国では一つの方向性が明確になりつつあります。日本の大学入試センター試験に相当する役割を担っているSAT(大学進学適性試験)を管理・運営するNPOのThe College Boardが昨年からごく一部で開始したAdversity Score(逆境点)という考えです。(正確にはEnvironmental Context Dashboard (ECD)と言うそうです )
これは先月、Wall Street Journalが最初に報じた後、色々なメディアで報じられています。日本以上に貧富の格差が大きく、また、危険と隣り合わせの劣悪な住環境も少なくない米国で、そうした環境に育った高校生には、その点を幅広く考慮して、大学への入学願書に添えて提供されるSATの点数に「加点」するという考えです。
そうすることで、レベルの高い私立高に通い、自宅では家庭教師について勉強し、SATで高い点数を取った生徒だけが一流校に入るという多様性に欠けた実態を改善しようという狙いです。
昨年は、50の大学でβテストが実施され、今年は150大学に拡充、来年はもっと幅広く採用される見通しだそうです。
具体的に、何点ぐらいが加点されるかはわかりませんが、Fox Newsの記事では、ミシシッピの田舎の白人高校生が400点も加点されたケースを紹介しています。SATの満点は1600点ですから、相当な上積みもありうるということですね。
配点については触れていませんが、CollegeBoardのページには、加点する例として31の要素を記述しています。それを要約したと思われるWSJの表を借用します。
上は生徒の住む近隣の環境で、犯罪発生率、貧困率、家屋の市場価値、空き家率です。
二つ目が家族環境で、平均収入、片親かどうか、親の教育レベル、英語は第二言語かどうか。親の教育程度が高いほどSATの点数も高いことが統計的に明らかになっているからです。
三つ目は生徒の通う高校に関してですが、無料ランチ受給率、大学入門レベルの授業(AP)を受ける機会のあるなしなど。
これらを総合して、例えば、裕福な白人家庭の多い地域で育ち、APが受けられる高校に通ったなら、もっと、SATの点数を得られたであろうとして、加点するわけです。
NYタイムズの記事によると、こうした加点は個々の生徒の事情を勘案するのではなく、その地域、学校単位で国勢調査をもとになされるとのことです。かなりラフではある。
その点に関し、SATの議論に加わったという専門家はThe Atlanticに寄せた一文で、こう言っています。「犯罪の多い地域で育ち、貧困率の高い学校に通って(加点分を含めて)1200点を取った生徒は、最高の私立学校に通い、家庭教師にも支払って1200点を稼いだ学生よりも長期的には見込みがあるはずだ」「だから、逆境点は多少、荒っぽくても、何もないよりはましな方法なのだ」
また、こういう事実も紹介しています。「ジョージタウン大学の調査によると、最も不利な立場にある学生は、平均して、最も有利な立場にある学生よりもSATで784点も低い」と。
文科省の有識者の考える「入試の公平性」とは次元が全く違います。違い過ぎます。日本には、才能を秘めながら、社会経済的に一流大学を目指せない現代版のジュンのような高校生はまだまだいるはずです。
ちなみに、文科省の有識者会議の最終報告書とメンバー表へのリンクを貼っておきます。ご参考まで。
2019 年 6 月 4 日 at 20:50 PM
公平ーの原点に少しでも戻って欲しい。
2019 年 6 月 5 日 at 11:52 AM
なんかアメリカの大学や大学入試に幻想を抱きすぎじゃないですかね。
これ補正するのがSATっていうのがポイントで、もともとSATは簡単すぎて上位校狙う生徒はほぼ満点とるので差がつかない(テストが得意なアジア系が有利になりすぎるので簡単にされた)ので、貧困地域出身者のSATの補正したところで一流大学は無理です。
よく知られているようにアメリカの一流大学に入るためには推薦状や活動履歴が重要で、これらは親の収入や社会的地位がもろに効いてきます(アメリカには、AO義塾をもっと洗練させた、履歴書ばえする活動を支援する塾みたいなのがあるのです。もちろん中流にはとても出せない値段)。
ちょっと前アメリカでお金をとって入試に有利になるように不正して逮捕された人がいますが、あれは個人でお金を受け取ったのと不正行為をしたのが問題なだけで、親や祖父母が大学に多額の寄付をしたから、大学がその子供の入学に便宜をはかるのは不正でも何でもないわけです。というかアメリカでは多大な寄付金を与えてくれ、ビジネスや研究機会をもたらし、大学の宣伝塔にまでなってくれる有力者の子供が優遇されるのが「公平」なんです。
日本ではいままで少なくとも国公立大学では親や本人の経歴や経済力に関係なく純粋にテストだけで決まっていましたが(そのおかげで進学塾など存在しない僻地出身だけど一流大学いけた人もいれば、幼稚園段階から進学塾に通っても、おじいさんが首相でも一流大学に行けなかった人もいるわけです)、政治家や官僚がテスト以外も考慮に入れろと圧力かけてるからそれもいつまでつづくかわかりませんね。
2019 年 12 月 17 日 at 20:49 PM
これ酷い記事だな。
他の方のコメントでも書かれていますが、入試に多様性()や弱者優遇()を持ち込んでも、普通に努力している庶民が不利になるだけですよ。
入試で公平性が高い(親の地位の影響を受けにくい)国は中国韓国シンガポール、次いで日本。で、逆に米英はコネ入試なので公平性が低い。
ま、欧米は先進的だガーと言ってれば意識高い人にはウケるんだろうけどねw