電気飛行機が現実のものになろうとしているようです。

先週、フランス・パリで開かれたパリ航空ショーで注目を集めたのが、イスラエルのスタートアップ・Eviation社のAliceだったそうです。理由は、世界初の全電気「商用」飛行機だからです。

自動車と同様、ジェット燃料とバッテリーによるハイブリッド旅客機の開発が先行してきましたが、全く化石燃料を使わないのがAliceの特徴です。まだ、飛んでいませんが、こういうデザインです。(現物はフランスで組み立てられ、ショーでお披露目をしました。その時のビデオはこれ

浮き上がりやすいように底部が平べったい胴体になっていて、何より特徴的なのは翼の両端と最後尾に付けた3つのモーターで後ろ向きになっているプロペラを回して推進力を得る構造です。

記者会見したEviation社のOmer Ban-Yohay CEOによると、旅客数は9人で、航続距離は最大1040km、高度3000mで飛行、速度は時速440kmだそうです。

最大離陸重量はカーボン合成構造もあって7トンと軽いものの、搭載するバッテリーは4トンに達する巨大なものだとGeek Wireの記事にあります。

この仕様から、長距離の国際便には無理で、ターゲットは近場を結ぶリージョナル(またはコミューター)航空会社。早速、その一つでアメリカ中西部やカリブなどで小型機90機を運用するCape Airが1機400万ドルで”2けた”分を注文したとのこと。

Omer Ban-Yohay CEOによると、Aliceは最初からオール電化仕様でデザインされ、「何も新しいものを付け加えていない」そうです。つまり、全て既存の技術、製品を組み合わせたものだということ。それが、意外に安い値段になっている理由かもしれません。

少人数で短距離しか運べない、というのは一見、あまり魅力的でないように思えますが、そうではないと専門家は見ています。

プロペラを回すモーターをSiemensとともに 提供する米・MagniXの Roei Ganzarski CEOは、「800km以下の近距離フライトのチケットは毎年20億枚も売れているので、小型電気旅客機のビジネスの可能性が高いのは明らかだ」とBBCNewsに語ったということです。(そんなに航空旅客数が巨大なのかと思って調べたら、昨年初めの報道で世界の全航空旅客数は40億人を超えていました

そして、決定的に電気飛行機が有利なのは飛行コストの安さだと指摘しています。規格がAliceに似ている小型機で有名なセスナキャラバンの場合、100マイル(160km)のフライトに400ドルの燃料を使うが、Aliceなら8-12ドルで済むのだそう。

しかも、環境にも優しい。航空機は世界の二酸化炭素排出量の2-3%を占めると言われる中、ノルウェーの航空規制当局者は昨年1月の段階で、短距離フライトは2040年までに全て電気飛行機にすべし、と発言していました。

また、先のBBCの記事によると、スイスに本部を置く投資銀行UBSは「航空機セクターの地域旅行向けは急速にハイブリッドと電気飛行機に転換する。2028年から2040年の間に毎年550機の需要がある」と予測しているとのことです。

そういう時代が幕開く先駆けのAliceは航空ショーの後、日本の三菱が作ったMRJも使ったというワシントン州の飛行場に運ばれ、試験飛行を行うそう。そしてFAA(連邦航空局)の認可を2021年後半から2022年初めあたりに得ることを目標にしています。

しかし、開発が遅れに遅れたMRJは、つい先日、「三菱リージョナル(地域)ジェット」から「三菱スペース(宇宙)ジェット」と改称したそうですが、Alice以外に、燃料を30%は節約できるというリージョナル向けのハイブリッド旅客機も続々出てきそうな中で、どうなっちゃうんだろう?