メディアやネットに関する様々な知見を提供してくれるPew Research Centerが、このほど「(5万部以上の)”大”新聞の4分の1(27%)が昨年、レイオフをした」とする調査結果を公表しました。

これに先立つ7月には、「米国の編集局要員は2008年比で4分の1が失われた。特に新聞で顕著」だとして、新聞社の記者数が2008年の7.1万人から2018年には3.8万人まで減っていると報じました。ほぼ、半減です。

この2つを並べると、レイオフによって新聞記者が減った、と受け取られそうですが、実は、それだけではありません。少なからぬ人が、「低賃金で家族を養えない」という理由でジャーナリストから足を洗っているのだ、という記事の連載が「Medium」で始まりました

書いているのは、サンディエゴ在住のLuis Gomez氏。毎週金曜日にメールで「California media Jobs newsletter」を発行しています。2005年に大学を出て、すぐにローカル紙の記者になりましたが、収入の不安から辞めて、2015年からニューズレターを始めたところ、多くの同じような悩みが寄せられているとのこと。

そこで、Gomez氏は、元ジャーナリスト160人を対象に「なぜ辞めたか」などを問う調査を行い、それを元にした3本の記事がさる2日にリリースされました。そのうちの1本は、10人の元記者の生々しい「辞めた理由」です。まず、それを抜粋してみます。

①私は物語を紡ぐ貴重な機会を得て誇りに思っていた。しかし新聞はレイオフが続くとても不安定な産業となり、レイオフされるまで新聞に全てを捧げる人々を見るのに疲れてしまった。現在:広報責任者

②「ジャーナリズムにはお金がない」とみんなが言う。みんなはその信ずるものに向かってやってるがお金の見返りはない。現在:健康器具などのセールス

③ストレス、低賃金、足りないスタッフ、士気の低さ、長時間労働で燃え尽きた。現在:コミュニケーションスキル専門家

④新聞がオンラインに進出した時にやめた。リーマンショック前だ。内部を整理統合し、編集デスクを撤廃した時にこれはダメだと思ったからだ。現在:コピーライター

⑤結婚する直前だったので、いつ家に帰れるかわからないような仕事を続けるわけに行かなかった。今は教えることで昔より稼いでいる。現在:メディアに関する大学教授

⑥メチャ安い給料、気違いじみた労働時間、とんでもない責任、家賃も払えないので若手にあたり散らしてた。そしてめちゃくちゃな睡眠や食事時間で病気になっちゃう。現在:NPO報道機関

⑦ある新聞に11年。昇給はとても少なかった。合理化で事務員と門番がいなくなり、突然、便所掃除や草むしりまでやらされるようになって、辞めた。現在:広報責任者

⑧全国チェーン傘下の中堅紙だったが、常に仕事対応を強いられ、より少ない人数でより多くの仕事をというのは10年持たないんじゃないか。現在:コミュニティカレッジの映像作家

⑨相次ぐ銃乱射事件や大統領選取材で健康を損ねた。加えて給料はハードワークに全く見合ってなかった。現在:コミュニケーションスキル専門家

⑩大都会のTVジャーナリストだった。給料は良かったが勤務時間はとんでもなかった。子供も作れなかったが41才で妊娠し、辞めた。現在:大学教授

全員、レイオフされてはいません。過半数が「安月給」を退社の理由にしています。

ここで思い出されるのが、新聞記者という職業が、2015年から2017年まで3年連続、米国でワースト1にランクされ、昨年のランクで、ようやく220職種中218位と最下位脱出という事実です。

そこで表示されているサラリーの中間値は「39,370ドル」。確かに安い。

また、Pewの別の調査によると、4年制大学を卒業した新聞記者は、同じ4大卒の他産業で働く労働者より賃金は9,000ドルも安いという結果を示しています。

でも、米国のすべての新聞の記者が安月給かというとそうではありません。これは1年前のVoiceの、大手紙に於ける賃金の男女格差を論じる記事でしたが、大まかな給与水準を知ることもできます。

それによると、Wall Street Journalの場合、勤続0-5年で8~9万ドル、20年以上だと12~14万ドルに達します。NYタイムズだと、それより1万ドルほど低い水準。ワシントンポストやLAタイムズも大差はありません。WSJはこんな感じ。

こうした、著名な大手紙記者のサラリーも含めて、その中間値が5万ドル余りということは、中小のローカル紙は、それより下回っているのでしょうね。そこに、さらなる人減らしの嵐ということになれば、自ら辞める人が増えても不思議ではありません。そして品質が落ちれば、読者離れが加速する。

先に触れた「元記者160人調査」に関する別の記事によれば、その81%が4年制の大学でジャーナリズムを学んでいました。つまり、若い頃からジャーナリストを志して業界に入ってきた人たちです。

そして、レイオフでなく、自ら辞めた人たち10人の現職は大学教授や広報責任者など、みんな立派な職業についています。それだけ有能な人たちほど自ら辞めているようにも見えます。そうしてローカル紙はますます衰退する。なんだか、よその国のことだけど、元同業者として、切なくなりますね。

そしてGomez氏はその記事の後半で力説します。「ローカル紙のジャーナリストはより少ない費用でより多くを求められる我らの世代のブルーカラーだ」「アメリカの民主主義はローカルニュースなしに成り立つのか」「もし彼らが真実を語り、責任を全うすると信ずるならば、彼らを路頭に迷わせ、ひもじい思いをさせてはならない」