今年6月に、このブログで好意的に取り上げた件が、その直後から批判に晒され、提案者が軌道修正していたことを、ようやく知りました。なので、不明を恥じつつ、遅ればせながら、その顛末を報告します。

それは文科省の有識者会議がまとめた「大学入試の公平性確保に関する報告書」が 5月31日に公表されたのを機に、米国で始まっている全く別の観点からの入学選考のありようを紹介したものでした。

日本の大学入試センター試験に相当する役割を担っているSAT(大学進学適性試験)を管理・運営するNPOのThe College Boardが昨年からごく一部で開始したAdversity Score(逆境点)という考えです。(正確にはEnvironmental Context Dashboard (ECD)といいます)

日本以上に貧富の格差が大きく、また、危険と隣り合わせの劣悪な住環境も少なくない米国で、そうした環境で育ち、貧しい子弟の通う高校に通った生徒には、その点を考慮して、大学への入学願書に添えて提供されるSATの点数に「加点」するという計画でした。

そうすることで、レベルの高い私立高に通い、自宅では家庭教師について勉強し、SATで高い点数を取った富裕世帯の子弟だけが一流校に入るという多様性に欠けた実態を改善しようという狙いです。(背景には、セレブの子弟が賄賂を使って一流校へ入学していたことが明らかになったVersity Blue スキャンダルの影響もあったようです)

日本でも、昨年、騒ぎになった私大医学部の不正入試問題への反省から、文科省の有識者会議の打ち出した公平性確保の対策は「出願表には親の職業、出身校は記入しない」「判定資料には受験生の年齢、性別、出身校などは記入しない」などとあり、要するに、「テストの成績一本で決めろ。差別につながりかねない要素は一切、考慮するな」ということです。

これが日本式の「公平」。しかし、米国式だと「育った環境(の悪さ)」と「通った高校のレベル(の低さ)」を点数化してテストの成績に積み上げよう、というもの。それがCollege Boardの考える公平性でした。なかなかいい考えだと思い、先行実施したケースでも評判が良さそうなので紹介したわけです。

しかし、今になって知ったことですが、実際には、すぐに批判の声が広がっていました。NYタイムズによると、逆境点は、生徒の学校環境と生活環境のそれぞれについて1から100の間に格付けし、その2つの平均をとって点数化して加点するということだったようですが、親や教育者からは「生徒がやり遂げたことや困難に立ち向かったことが、SATの数学と読解力と同じように数量化できると誤って示唆した」という批判があったようです。

また、受験準備で有名なKaplanの幹部によると「家族から聞いている最大の懸念は、彼ら自身が生徒の逆境点を知ることができないことだ」としています。点数は、大学の入試担当者にのみ知らされていたのです。

また、Kaplanは、CollegeBoardが、逆境点の導入を正式に表明したのを受けての声明では「大学が入試にあたって、社会経済的要因を考慮できるようにするもの」として一定の理解を示しつつ、「計算方法に透明性がない」と指摘していました。

また別の進学対策会社Prep Expertの幹部は「豊かな地区に住んでいても、親や兄弟を亡くすという辛い体験をする生徒もいる。そういう体験が成績にどんな影響を及ぼすか、入学後に学生団体にいかに貢献するかという統計は全くない」との表現で、貧困地区に育ったというだけで、加点され、「多様性」の旗印のもとで入学が容易になりかねないことに疑問を投げかけていました

こうしたことから、CollegeBoardは、導入公表から3ヶ月ほどで、突然、逆境点計画を取り下げてしまうのです。David Coleman CEOはNPRのインタビューに「学校と地域の環境に関わる複雑な情報を1つの点数にまとめたのは間違いだった。点数はどのように計算されたかの批判や、生徒や親が利用できないという批判に応えてやめた」と、潔く認めました。

でも、考え方の基本を変えたわけではありません。従来の計画のようにSATの点数に上積みはしませんが、住環境、高校環境については、ぞれぞれ別個に、大学側に志願者の高校環境、生活環境を、やはり点数として提供するLandscapeというツールを立ち上げたのです。これはその説明ビデオです。

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例えば高校環境なら、無料ランチの生徒の率や卒業生の大学入学後のパフォーマンスなど、生活環境なら近所の平均収入、犯罪率などを総合して点数化します。その提供情報の要素や評価の仕方などをリストにして公表し、透明性を高めています。

また、その情報は、大学の入試担当者だけでなく、志願者や親にも報告されるとのことです。なんとも素早い対応で、感心します。

Coleman CEOは「解釈は大学の入学選考管理者にお任せする」「言い換えれば、入学判定のために、より多くの判断要素を提供するということだ」と言っています

ということで、これが少々安易に支持した感のある6月のブログ記事の後始末ですが、結果的に逆境点計画が進化したように見え、安心しました。