ブラジルのある新聞社のケースですが、年間収入の約半分は地元政府からのものだそうです。

これは単純な資金援助の形でなく、大量の部数の年間契約によるものだとか。ロイタージャーナリズム研究所の最近のレポートで知りました。

紙の新聞読者の減少は、欧米や日本だけじゃなくて、ブラジルでも著しいとのこと。先のレポートでは、2000年には30万部以上あった3つの全国紙が、現在はその3分の1ほどに激減しています。

なので、お役所にたくさん取ってもらわないと立ちいかないのでしょう。レポートでは、「ブラジルでは、連邦政府、州政府、大都市の役所で、それぞれ毎日数千部の契約をしているのが当たり前だ」とあります。

そんな情報にたまたま接していたせいで、<NYタイムズ ワシントン・ポスト 米政府「購読打ち切り>という今朝の新聞記事を目にした時に、思わず「これはタイムズやポストを目の敵にしているトランプによる兵糧攻め?」などと思ってしまいました。

記事では、すでにタイムズ、ポストはホワイトハウスに配達されず、ホワイトハウスのグリシャム報道官によると「全ての連邦機関で購読契約の更新を見送れば、大幅なコスト削減になる」と説明したとあります。

連邦政府にとって「大幅なコスト削減」ということは、タイムズ、ポスト両紙にとっての「大幅な収入減」になるということでもあります。

一体、新聞社のダメージはどのくらいになるのか?興味を惹かれて、ネットで関連記事を漁ってみました。

この動きの始まりはFoxNewsで月曜夜に放映されたSean Hannityのインタビューでトランプ大統領が「NYタイムズとワシントンポストを切る(terminate)。彼らはFakeだ」と発言したこと。

で、その翌日、グリシャム報道官がThe Hillの取材に答えて「両紙の契約を更新するつもりはない」と回答します。

実際は、契約を更新しないだけでなく、早速、火曜日から、ホワイトハウスに配達される新聞各紙の中に両紙は含まれていなかった、とブルームバーグのホワイトハウス担当の政治記者Jenifer JacobsさんはTwitterで明らかにします。

そして、木曜日にこんな写真をTwitterにアップしました。ホワイトハウスに届いた新聞です。Wall Street JournalやUSA Today、Financial Timesは残っています。

 

この後から、WSJが、グリシャム報道官の発言として「大統領が軽蔑する新聞の契約更新をしないように政府職員に命令(direct)する計画だ」と伝えたことで、話が大きくなったのです。

その際に報道官は「契約更新をしないことで数十万ドルの税金の節約になる」と述べていました。

そこで疑問。数十万ドルの根拠はなんでしょうか?冒頭に紹介したブラジルのケースでは、連邦政府、地方政府、大都市の役所毎に数千部をとっているのが当たり前ということでした。

ならば、ブラジルより人口が多く、行政組織も多分、きめ細かいはずの米国だと、全国紙のNYタイムズの役所普及率は相当に高いのではないか?(ポストもですが)

(昔々の、日本の官庁や県庁、市町村役場への取材経験からすると、新聞契約数は多分、一紙毎に二桁は当たり前だったように思います)

仮に、NYタイムズの連邦政府との契約数が出先機関全てを含め全米で1万部だったとしましょう。それが失われたらどうか。今の紙の新聞の定価は1週12ドルです。月に50ドル。1万部で50万ドル、年間では600万ドルに達します。

どうみてもグリシャム報道官の「数十万ドルの税金節約」ってのはおかしい。

なので、その数字について言及している記事を探しましたが、当のNYタイムズWaPo自身、ホワイトハウスに切られた件については報じていても、その連邦政府との契約数については「すぐにはわからない」と逃げています。(意外に役所依存度が高いことを知られたくなのかな?)

その一方、両紙共、1962年にケネディ大統領が、政権の仕事ぶりを低く評価したというニューヨーク・ヘラルド・トリビューンの社説に怒って、購読契約を切ったという前例を紹介しています。

そして、最後に「間も無く新聞なしではうまくいかないとわかって、新聞をとりだした」と、同じように書いています。

まあ、先に紹介したJacobs記者のツィートでも、「ホワイトハウスのスタッフは、大統領が両紙とも読まないってことに疑念を持ってる」ってありました。

トランプの思いつきの強がり、と見切っているのでしょうか。「兵糧攻めではないのか」というのが思い過ごしであるといいのですが。