前々回のブログ「東京五輪は決して不人気じゃなかった!」では、米国の主要メディアが東京五輪について「テレビ視聴者が過去最少だった」とか「テレビ視聴率は最低だった」とか、なんだか貶めるような報道が相次いだ件について、それは間違いで、前回五輪からの5年間でストリーミングが急拡大し、既存のテレビ視聴者が激減していることを反映しているに過ぎないと反論してみました。

事実、ストリーミングで東京五輪を視聴した人は前回リオデジャネイロ五輪の7倍にも達したという報道もありました。その流れを裏付けるような報道が今週、相次ぎました。

その一つは東洋経済が報じた「YouTubeに食われる放送局」。スマートテレビ100万台の分析データで、スマートテレビに搭載されたアプリでYouTubeの利用率は夕刻から夜にかけて、NHK、民放を抑えてトップで、その他の時間帯も上位だったことがわかったのです。

もう一つは、ITmediaが報じた「10〜60代のネット利用時間、初のテレビ超え」という総務省調査に基づく記事。平日のインターネット利用時間は、全世代平均で168.4分で、テレビの平均視聴時間163.2分を5分余り初めて上回ったということです。

特に10代ではネット利用時間は224.2分に達し、テレビ視聴の73.1分の3倍以上に達しました。20代でも同様で、ネット255.4分に対しテレビは88分とほぼ3倍。30代、40代でもネット利用時間が上回り、テレビの視聴時間がネットを上回るのが50歳以上だったのです。

まさにネット、デジタルの時代。新聞同様、テレビ局もデジタルに追い詰められている、という印象を抱かせる二つのニュースでした。

そこで今日28日の朝刊の記事。各紙が一斉に報じた、武田良太総務相が昨日の閣議後会見で、NHKに新たなネット配信実験を要請した、という件に目を奪われました。

ネットで各紙の記事を検索してみましたが、ほとんどが「総務相がNHKに実験を要請」という文字通りのあっさりした内容でしたが、朝日と読売だけが書き込んでいました。

それと総務省の大臣会見記録も参照すると、武田大臣は「インターネットを通じたコンテンツ視聴の拡大など、国民の視聴スタイルが急速に変化する中で、豊かで質の高い正確な情報をいかに多くの方にお届けするかが課題になっていると認識している」という問題意識から、前述の総務省調査で、テレビを見なくなっている、あるいはテレビを持っていない人に、いかに”真っ当な”情報を届けるかが重要で、それを公共放送のNHKに託した、ということのようです。

会見ではそれ以上、突っ込んだやりとりはなかったようですが、朝日と読売は総務省関係部局に取材した内容を報じています。しかし、なお、内容的には不明な点が多いのです。

まず、どんなものをネットで流すのか?読売の<NHKネット配信「実験を」 総務省要請…TVない人向けに>は「NHKの番組を無料で」とし、昨年4月から始まった、NHK契約者向けの、地上波の同時配信と1週間の見逃しサービスのNHKプラスの無料配信を想定しているようですが、朝日の<総務相の実証要請に民放側は テレビない人に配信>は、NHK配信総務省関係者の言として「放送した放送した番組と同じものを流すだけでなく、ネット利用者向けの工夫を凝らしたコンテンツ配信」を期待している、と書いています。

対象者については、読売が「数千人」としているのに対し、朝日は、ただ「テレビを持っていない人」と漠然とした書き方。いずれにしても、どうやって対象者を選ぶのか分かりません。朝日の言うように「工夫を凝らした」ものなら、私も見たい。

狙いについては朝日が「若者のテレビ離れが指摘され、国会でもNHKに工夫を求める声が上がっていた」と、これまた漠然とした書き方。読売は「ネットの偽情報が問題になる中、多様な情報に接してもらう」と踏み込んでいますが、これもイメージが湧かない。

まあ、武田大臣自体、会見で「公共放送におけるネット配信の意義やサービスニーズを検証する」という抽象的な言い方をしているんですが。

そして、NHKのネット進出については、朝日が「受信料収入で制作した番組を受信料を払っていない人に配信するため、公平性をめぐる反発も起きそう」とか、民放関係者は「受信料制度の根本を揺るがすことになる重要な局面」としているなどとおどろおどろしく書き、読売も、「今回の実証実験が将来的にネット事業の拡大につながれば民業を圧迫する恐れもある」とか、「日本民間放送連盟や日本新聞協会は抑制的な運用を求めている」と、朝日と足並みを揃えています。

武田大臣にしてみれば、民放局と関係の深い二大紙のこうした注文は織り込み済みで、抽象的な言い方になったのでしょうが、問題意識は間違ってはいないように思えます。一体、どういう、若者向けコンテンツをNHKが編み出してくるのか、楽しみにしましょう。読売によれば、来春開始だそうです。