「リユース事業のノウハウ売ります」
リユース(中古)事業の市場が拡大しており(図表1)、国内外さまざまなブランドや小売店がリユース事業に乗り出している。パタゴニア、ノースフェイス、アーバンリサーチ、ZARA、H&M、ユニクロなど、近年リユース事業に参入した企業は書ききれない。この一年でも、無印良品がリユース事業を拡大(2023年5月)したり、キャンプ用品のスノーピークが商品の買取を始めたり(2023年8月)、米ニューバランスがリユースプログラムの開始を発表(2024年2月)したりと、活況が続いている。
そして足元ではある変化が起こっている。元々リユース事業をしていた企業が、新たにリユース事業に乗り出す企業に対してノウハウやツールの提供を始めたのだ。
この種の現象は、その領域が右肩上がりになっている時に必ず起こる。サブスクビジネス隆盛の時は、企業にサブスク事業のノウハウやサブスクシステムを提供する米Zuoraなどが。またD2C(Direct to Consumer)の時には、ECサイト構築サービスの加Shopify、Base、Storesなどが一気に台頭した。サブスクにしてもD2Cにしても、単発的な物販や、量販店を介した間接販売とは異なるためノウハウが必要となる。また、そのためのシステムを内製で作り運営するのも難しい。というわけで、それらを支援することがビジネスになるのだ。
リユース事業も同様だ。同じ物販ビジネスでも、1次流通(新品販売)と2次流通(リユース)は異なる。2次流通における、商品の下取り、検品、商品状態とタイミングを踏まえた値付け、商品管理などは、どれも1次流通にはない工程だ。新たにリユース事業に参入する場合、それらを手探りでゼロから築いていくのもよいが、すでにノウハウを持っている企業と提携すれば効率的なスタートを切ることができる。
ゲオがリユース事業のノウハウやシステムを外販
2023年12月、リユース事業「セカンドストリート」を運営するゲオは、これまでの事業経験で築いたリユース事業のノウハウやシステムを、1次流通の企業向けに提供することを発表した[1](図表2)。
今や1次流通の企業も、サステナブルの観点からリユース事業の導入が不可欠になりつつある。しかし前述の通り、リユース事業は特殊だ。自前でゼロから立ち上げるには時間がかかる。そこでゲオは、ノウハウを提供し顧客企業のリユース事業支援に乗り出した。このサービスは2024年夏ごろから提供開始となる予定だ。
冒頭で述べたように、さまざまな1次流通のブランドが続々とリセールを始めている。となれば、ゲオ(セカンドストリート)のような二次流通特化の企業はパイが奪われるのでは?という見方もある。しかし、コンサルやシステム提供によって一次流通の企業のリユース事業に食い込んでいければ、ゲオにとってのさらなる成長機会になるかもしれない。
コメ兵が「楽天ラクマ」にブランド品の検品技術を提供
2024年1月、リサイクルショップを運営するコメ兵と、楽天グループが運営するフリマアプリ「楽天ラクマ」が提携を発表した[2]。コメ兵は独自のブランド品検定サービス「KOMEHYOカンテイ」の技術を、楽天ラクマの「ラクマ鑑定サービス」に本格提供する。
ユーザーはラクマで購入した対象商品を、ラクマ鑑定サービスに送ることで無料で検品を受けることができる(片道送料をユーザー負担)。これにより購入商品が正規品であるか否かの確認が可能となる。対象となる商品はブランドバッグ、衣料、時計、ブランドジュエリーなどだ。
背景にあるのは、リユース市場の拡大に伴って偽造品・模造品の流通も増えていることだ。特にラクマのようなCtoC(個人間)のフリマアプリでは、業者による買取形式のサービス(CtoBtoC)とは異なり、サービスの中に真贋判別の機能がない。そこをカバーするのがコメ兵の鑑定士とAIによる検品だ。コメ兵のAI真贋判定の精度は99%だという[3]。
両社は、本格導入に先がけて、2023年9月より本サービスを試験導入していた。そこで、検品サービスの導入がリユース事業にプラスに働くことが明らかになったため、本格導入という運びとなった。試験を通じて分かったのは、商品に「検品対象」と表示することで顧客転換率(訪問数に対する購入率)や平均単価が上昇(数値は非公開)したこと、ユーザーからの「不安が払拭された」などのポジティブな反応があったことだ。リユースにつきものの心配事をケアすることで、事業を促進できる可能性がある。
今後さらに進みそうなのはAI
リユースノウハウ外販の動きをみてきた。今後の展望として考えられるのは、AIの導入が進むことだろう。AIによる真贋判定のみならず、下取り価格や再販価格、さらには再販のタイミングの決定にもAIが活用されていくだろう。これまで中古品の値決めは難しかった。一方、中古品の種類や状態、そして、それがいついくらで売れたのかをデータ化できれば、AI活用による最適化は十分可能だ。
例えばZOZOの中古事業ZOZO USEDでは、下取りから再販までの各プロセスにAIを導入している[4]。出品時に短期間で売れる、かつ利益も確保できるような値付けをAIが行う。これにより、下取り価格や再販価格を高めることに成功している。季節性のある商品ならそれを加味することで最適な出品時期や点数を決める。
「値決めは経営[5]」だ。難しい値決めだからこそ、そこをAIでサポートする企業も出てくるのではないか(今のところZOZOはノウハウ外販には参入していない)。
KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎
関連コラム
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参考文献
[1] ゲオホールディングス「ゲオホールディングス、リユース事業のビジネスシステム外販である「リユースアライアンス事業」へ参入」(2023年12月12日)
https://www.geonet.co.jp/news/38691/
[2] 楽天グループ「楽天、「楽天ラクマ」においてKOMEHYOと提携し「ラクマ鑑定サービス」の本格提供を開始」(2024年1月29日)
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2024/0129_01.html
[3] コメ兵「コメ兵、リアル店舗に「AI真贋」導入 リユーステックで偽物を排除し、健全なリユース市場を創造」(2020年8月18日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000111.000000884.html
[4] BUSINESS INSIDER「 「買取廃止」で7割が「ZOZOTOWN由来」。古着ブランドZOZOUSEDが10周年で好調の理由」(2023年6月22日)
https://www.businessinsider.jp/post-271614
[5] 稲盛和夫オフィシャルサイト「経営12カ条 第6条 値決めは経営」
https://www.kyocera.co.jp/inamori/about/manager/twelve/twelve06.html