研究員がひも解く未来

研究員コラム

D2Cの全盛期はこれから 〜サステナビリティの時代に活きるダイレクト接点

コロナ禍でも増える古着屋

東京世田谷の下北沢は古着の街として有名だ。日本は寺社仏閣の数[1](約15.6万箇所)がコンビニの数[2](約5.6万箇所)より多いと言われるが、ここ下北沢ではコンビニよりも寺社よりも古着屋が多い。昨今、コロナの影響で撤退した飲食店の跡地にも古着屋が続々と新規出店している[3]
日本全国でみても古着ニーズは高まっており、楽天のフリマアプリ「ラクマ」では、キーワードに「古着」が含まれる商品の2021年1〜2月における取引量が前年同期の2倍に伸びている[4]。どうなっているのだろう?

図表1 下北沢の古着屋(Google Mapにて”古着”で検索)

世界で高まる古着需要〜今回はブームで終わらない?

古着ニーズの高まりは諸外国でも同様だ。古着の購入率はあらゆる世代で伸びているが、中でも環境や社会問題に敏感とされるZ世代やミレニアル世代の古着購入率は特に高く、その伸びも大きい(図表2)。この世代が現在の古着ニーズを引き上げているのだ。
ファッションの世界で古着ブームは数年周期でやってくる。しかし今回がサステイナブル文脈の需要増ならば、より持続力のあるムーブメントになるだろう。

図表2 若年層ほど中古を買っており、購入率は以前より増している
(中古ファッションアイテムの購入率) 
出所:thredUP, 2021

ブランド公式中古ストアが増えている〜Patagonia、North Face、H&M

市場のサービスにも大きな変化が出ている。人気アウトドアブランドのPatagoniaとNorth Faceは、米国でそれぞれ2017年、2018年に自社商品の中古品を扱うオンラインストアを始めた。中古品を回収・下取りして修理・クリーニングののち再販する。
そしてファストファッション界もこれに追随する。2022年3月、H&Mも自社のECサイトで古着を扱い始めた[5]。現在はH&Mの本拠地であるスウェーデンのみでの提供だが、近くドイツにも展開する計画だ。
世の中の価値観の変化に伴って、今後も国内外の様々な分野のブランドが中古商品を扱い始めるのは間違いないだろう。

ダイレクトな顧客接点で中古回収〜リユース時代にも効くD2C

ここで、これまでのコラムでテーマにしてきた「D2C(Direct to Consumer)」の見地からリユースビジネスを考えてみる。D2Cという形態はリユースビジネスにもフィットするのだ。D2Cとはブランドが顧客とダイレクトにつながり、ブランドの価値観を直接伝え共感を得ながら商品を直販する形態のビジネスである。
リユースビジネスは中古品の回収から始まる。状態の良いモノを効率よく回収することが一つのポイントとなるが、顧客とのダイレクトなつながりがこれを可能にする。アパレル企業のストライプインターナショナルはD2Cビジネスの中でこれを実践しており、その秀逸っぷりがすごい。
同社のD2Cサブスク「メチャカリ」は、まず自社ブランドの新品服を「借り放題」で提供する。料金は月額2,980円より。利用者は選んだ服に飽きたら別の新品服に何度でも交換できるため、色々な服を試したい人にとっては嬉しい。
一方、返却された服は中古品となるわけだが、同社はこれを古着として自社ECサイトなどで販売する。この古着販売の利益も含めてメチャカリは成立している。戻ってきた服は、まだトレンド鮮度が高く、数回しか着用されていないケースが多いため、一般的な古着よりも状態が良く高く売れるという。
服の返却手続きも簡単だ。アプリから申し込み、コンビニなどから送り状不要で発送できる。手軽で効率の良い古着回収をサービスの中で実現している。

図表3 顧客とダイレクトにつながるメチャカリは古着の回収もしやすい
(出所)東洋経済「服を買わずに「借りる人」が急増している事情」[6]を基にKDDI総合研究所作成

新品だけでなくリユース、リペア、リメイクをD2Cで提供する時代がくる

D2C中古ビジネスは、ただの中古ビジネスとは異なる。ブランドに共感する利用者の間でモノが循環する、つまりは共感や愛着の循環でもある。さらにはD2C上ならリペアやリメイクも盛んになっていくだろう。そうしたものがまた循環する。これはサーキュラーエコノミーそのものであり、サステナビリティ重視の時代に多くのブランドが目指す姿の一つではないだろうか。ダイレクトなつながりはブランドをより強固にする。
そのように捉えると、今後どのブランドが公式中古ビジネスを始めてもおかしくないように思えてくるが、次はどこだろうか。個人的には、キャンプ・アウトドア用品のスノーピークあたりではないかと予想する。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎

◼️関連コラム
大企業がD2Cを目指すワケ
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/582
メーカービジネスがシフトする〜「モノ売り」から「ライフスタイル提案」へ
https://rp.kddi-research.jp/atelier/column/archives/598

◼️関連レポート
マスプロダクトがヒットしない時代のD2C (Direct to Consumer)
https://rp.kddi-research.jp/article/RA2019015
マスプロダクトが売れない時代のD2C – part2 - 〜国内D2Cビジネスや既存企業のD2C転換への示唆
https://rp.kddi-research.jp/article/RA2021015

◼️脚注・参考文献
[1] 宗教統計調査—文部科学省(2021.12.10)
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&toukei=00401101&tstat=000001018471
[2] コンビニエンスストア統計調査月報—日本フランチャイズチェーン協会(2022.04)
https://www.jfa-fc.or.jp/particle/320.html
[3] 下北沢に古着店の新店ラッシュ、コロナ禍においてなおその勢いは衰えない—リサイクル通信(2021.08.18)
https://www.recycle-tsushin.com/news/detail_6297.php
[4] 「古着」の取り引き数が約2倍に増加、キーワードは「原宿」、「高円寺」、「下北沢」—ラクマラボ(2021.03.31)
https://lab.fril.jp/post-3068
[5] H&Mがスウェーデンで他ブランドの古着取り扱い開始—WWD Japan(2022.03.14)
https://www.wwdjapan.com/articles/1338680
[6] 服を買わずに「借りる人」が急増している事情—東洋経済(2019.01.30)
https://toyokeizai.net/articles/-/263168