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川濵昇先生に聞く(第3回)——プラットフォーム規制の議論

執筆者: Nextcom編集部
カテゴリ: インタビュー
発行日: 2026/09/08

「川濵昇先生に聞く——会社法・独占禁止法・プラットフォーム規制、そして生成AIへ」と題して、Nextcom監修委員会委員長を務める追手門学院大学の川濵昇教授(経済法)へのインタビューをお届けします。第3回目の今回は、プラットフォーム規制の議論について伺いました。

(2026年5月28日収録。聞き手:Nextcom編集長 加藤尚徳)

コンピュータと知的財産——プラットフォーム問題の原点

川濵先生:1988年から、根岸先生が座長で、当時のシンクタンクであったNIRA総合研究開発機構の企画として、比較法研究センターが受託した「コンピュータ知的財産権と競争を巡る法政策」という研究会が始まりました。これは研究会が終わってしばらくしてから『コンピュータ知的財産権 – 保護と競争をめぐる法政策』(東京布井出版 1993年)という書籍にもなったのですが、泉水先生ら経済法学者、小泉直樹先生ら知的財産法学者、実務家が一緒になって、コンピュータ・ソフトウェアの保護と、それがもたらす競争へのインパクトを考慮して法政策を考えるというものです。

名前だけ見るとコンピュータ・ソフトウェア保護一般の話のようですけれども、最大の焦点は、OSや通信等にかかわる知的財産権の保護と競争の関係でした。その当時すでにコンピュータ通信が始まっていましたが、今後、通信機能を備えることによってコンピュータが初めて本当の威力を発揮する、まさにICTの世界が、そこで予見されていたわけです。そのときに、知的財産権の保護は、正しい競争、イノベーション競争のためにはもちろん必要だけれども、保護の与え方いかんによっては、かえって競争を損なうのではないかという議論があり、私はその中で厄介な「標準」の問題を分担することになりました。

標準の問題を考えていくと、当然のことながら標準化団体の活動に直面します。通信の世界では、基本的に標準を極めて重視して、標準必須特許はFRAND(公正・合理的・非差別的)条件でのライセンスに服させて、相互運用性と互換性を確保する、という形でやってきました。ですから、知的財産権と相容れないわけではなかった。問題は、デファクト標準です。OSのような中心的な領域で力を握ると、デファクトにはFRANDの拘束もないし、もともと皆に使わせようという文化がない。戦略的な行動を取れば、巨大な独占を握ることになるのではないかと。当時はまだMS-DOSの時代で、Windowsもまだ出ていない頃ですから、「潜在的にはあり得る」という問題でした。通信の方では、当時IBMが作っていた通信規格の問題があって、公的な標準化団体で作るデジュール標準の方であればFRAND的な制約も入るから知的財産権が暴走することはないけれども(今から思えば甘い認識でした)、デファクトはそうではない。どう制御するのかという議論をやっていたんですね。

もちろん通信の場合、プロトコル自体は著作権の保護対象になりませんが、プロトコルだけで通信プログラムができるわけではなく、その周辺のプログラムも関係してきます。そこで、一つの理念として、標準と相互運用性を重視する通信業界の文化があり、それに対するプロプライエタリなものを重視するコンピュータの文化の違いがあり、前者も重要だが、後者もイノベーションインセンティブでは重要だということになります。その上で両方のバランスをどうとっていくのかを常に念頭において議論していました。

標準の問題を考えていくと、ネットワーク効果の問題が必ず出てきます。当時は抽象的なネットワーク効果の議論が中心でしたが、やがてコンピュータのOSをめぐる間接ネットワーク効果——今で言うプラットフォーム問題です——が、1990年の頃にはすでに研究者の間で現実的な問題として浮かび上がってきていて、それが1990年代後半のマイクロソフト社の独禁法違反訴訟になっていく。私はそれをちょうど見ながら勉強していたわけです。

加藤:今日のプラットフォーム規制の議論が、30年以上前のソフトウェアと知的財産の研究会から始まっていた、というのは非常に興味深いです。

川濱先生写真
追手門学院大学法学部教授、Nextcom監修委員会委員長を務める川濱先生

エッセンシャル・ファシリティの「再発見」とテレコム自由化

川濵先生:もう一つ、デファクト標準と知的財産権の問題を考えるとき、一番使いやすそうな理論は、いわゆるエッセンシャル・ファシリティの法理です。ボトルネック独占の保有者に、強制的にFRAND条件で使わせるのが一番いい、ということです。この理論がちょうどアメリカで1980年代から急激に盛んになってきました。当時のアメリカの独禁法は極端に規制を緩和する方向の議論だったのに、なぜそれに反するような動きが出てきたのか。その説明と、この法理が定着するかどうかの説明が一つの課題になって、その研究を始めました。これは結局、マイクロソフトの問題として90年代後半から急激に広がっていって、私の研究の縦糸の一つになっていきます。OSの問題を考えることは——当時はまだその言葉は広がっていませんでしたが——プラットフォーム独占の問題を考えることと一緒で、今の言葉で言うプラットフォーム特性の問題抜きには独占を語れない世界になっていた。そこで、この問題に関心を持ち始めたんですね。

当然のことながら、テレコムの世界での自由化が視野に入ってきます。私が経済法の勉強を始める少し前に、AT&Tの同意審決による分割——テレコムへの競争導入——が始まっていた。「独禁法が骨抜きにされた時代」と言われているのに、独禁法をテコにAT&Tの解体がなされ、しかも、AT&T解体の頃にちょうどエッセンシャル・ファシリティの法理がアメリカの連邦裁判所の一部で受け入れられてきた。非常に面白い現象です。おそらく、規制緩和の方向に動く場合には、どこかでボトルネックの開放をしなければならない。アメリカで1996年に電気通信法がきちんとできるまでは、法律がない限り、独禁法がそれを担当しなければいけない——そういう要請が当然出てくる、ということだったのでしょう。

このエッセンシャル・ファシリティの法理は「昔からあった」という人もいます。しかし、私が知る限り、1970年代後半まで、この種の考え方を重視していた反トラスト法研究者でさえ、エッセンシャル・ファシリティの法理の存在をテキストでも論文でも書いていなかったんです。それが80年代になって突如アメリカで「再発見」されて、「昔からあったんだ」という議論になって、いくつかの判例をその法理のもとに整理するようになった。それがやがてEUにも伝播し、ドイツではそれを明文化する、という形で広がっていったんです。

その手の法理をいろいろ考えていくと、当然、その典型的な規制例であるテレコムの問題にも関心が向きます。ただ、私自身はあまり金融関連以外の業法の研究はしておらず、ネットワーク効果といっても決済機構だけが関心の対象でした。そうこうするうちに、私の教え子である和久井理子先生(大阪公立大学)や林秀弥先生(名古屋大学)、それから根岸先生が、競争法の中での自然な延長として、情報通信の規律を考えるという流れになっていき、私もそれに追随したわけです。

もともと1990年前後の問題意識では、通信に関するデファクト標準の技術に知的財産権があれば大きな懸念が生まれるのでそれへの対処が重要なはずだったのが、インターネットの登場で状況は一変します。私がアメリカに行った頃は、まだインターネットはそれほど広がっていませんでした。1993年に帰国した頃にはMosaic等が日本でもブームになって、MosaicからNetscape、そしてWindows95へと、たった2、3年で急激に世界が変わる。その世界の変わり方と、経済法の発展の仕方、それから経済法の関連分野における経済学の分析道具の高度化が、ちょうど軌を一にしていたので、勉強するのが楽しい世界でしたね。

加藤:今日的な情報経済学のような分野の発展とも、当時の状況は密接に関係しているのでしょうか。

川濵先生:私は情報経済学はあまり詳しくないのですが、素人が口を出せないような様々な問題があるとは思います。ただ、情報の価値や情報の問題というのは、法と経済学の問題を考えるときに不可避的に関わってくる問題です。分析道具の高度化とともに、分析対象に対する解像度の上がり方という点では、特に90年代以降、ゲーム理論、不完備情報ゲームなどの分析道具のレベルが上がるとともに、問題となる対象領域の拡がりとそこでの複雑化が進展して、それは法学の側にも、記述対象に関する経験的知識の拡充をもたらしたというところはあると思います。そのあたりが、私が情報通信・ICT関係に関心を持ってきた理由になりますね。

加藤:その時点では、やはりマイクロソフトの問題が大きかったのでしょうか。

川濵先生:そうですね。その頃にはネットワーク効果が強い場合には、必然的に独占がもたらされるのだから法的規律は意味がない、という議論さえありました。しかし、独占的地位にある者がネットワーク効果を濫用するなどして、さらに地位を強化したり拡張したりする戦略の可能性が検討され、可能であった場合の当否問題となります。例えば、それらの戦略を独禁法違反とすることがイノベーションを停滞させるという批判もあったのです。この批判に対する事後的評価としては、マイクロソフトの独禁法違反訴訟があったからこそ、「マイクロソフトの独占へのチャレンジャーが生まれ、デジタル経済の活性化の基盤となった」という見解が説得的だと私を含め多くの方が捉えたのではないでしょうか。ともかく、理論の成果を活用して、ダイナミックな環境であっても濫用的行動を制御することで、スタティックな消費者厚生だけでなく、イノベーションにとっても好ましい成果が生まれることもあるのではないか。これがそこからの研究関心になり、今のデジタル・プラットフォーム関係も、その関心の延長にあります。それと同時に、デジタル・プラットフォームの問題を見ると、依田高典先生(京都大学)のご研究などに現れるように、まさに行動経済学的なバイアスが、反競争的戦略を使う上での前提条件になる。標準的な経済学と行動経済学の両方をやらないと、規律対象に対する規律ができないんじゃないかと感じています。

(次回に続く)

川濱先生写真
川濱先生(左)とNextcom編集長加藤(右)

川濵 昇(かわはま のぼる)
1981年 京都大学法学部卒業
1986年 同法学研究科退学、同助手
1988年 京都大学法学部助教授
1995年 京都大学大学院法学研究科教授
2023年 京都大学名誉教授
2023年 追手門学院大学法学部教授

<主な学会活動>
日本経済法学会理事(1999年から、2017年から2023年まで理事長)
日本国際経済法学会理事(2012年から)
日本消費者法学会理事(2019年から)等

<主な社会活動>
経済産業研究所ファカルティフェロー(2006年から)
総務省情報通信行政・郵政行政審議会会員(2013年から2023年まで、2021年から2023年まで会長)
公正取引委員会独占禁止懇話会会員(2010年から2015年まで)等