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川濵昇先生に聞く(第4回)——消費者保護、個人情報保護の視点

執筆者: Nextcom編集部
カテゴリ: インタビュー
発行日: 2026/09/29

「川濵昇先生に聞く——会社法・独占禁止法・プラットフォーム規制、そして生成AIへ」と題して、Nextcom監修委員会委員長を務める追手門学院大学の川濵昇教授(経済法)へのインタビューをお届けします。第4回目の今回は、消費者保護、個人情報保護について伺いました。

(2026年5月28日収録。聞き手:Nextcom編集長 加藤尚徳)

消費者保護と独禁法——優越的地位の濫用をめぐって

加藤:規律を考える上で、規律される側のさらに先にいる人——つまり消費者の行動をどう捉えるかは、合理的か合理的でないかも含めて、今日的にもなかなか難しい問題だと思います。当時から、そうした議論はあったのでしょうか。

川濵先生:これに関しては、行動のプロセスの問題とともに、いわゆる「均衡にどう至るか」の問題もかかわってきますね。要するに、人々がそういう行動をした結果、帰結がどうなるか。合理的選択論を取れば、均衡が非常にきれいに定義できて予測ができますが、そこに非合理的なものが入ってきたときにどうなるか。この場合、企業や洗練された消費者など合理的なプレイヤーもいる中で、どのように搾取が行われるのか、あるいはその搾取が継続可能かどうかを均衡戦略で考えることも可能でしょうが、予想される帰結はケースバイケースになるのではないかという印象です。

加藤:先日、舟田正之先生(立教大学)にお話を伺った際だったと思うのですが、舟田先生の最近のご関心として、消費者保護と独禁法のお話をされていた記憶があります。まさに今の先生のお話は、そこに近いところがあるのかなと思ってお伺いします。消費者保護のベクトルと経済法的なベクトルは、最終的に規律としてはどこかで均衡点を見つけなければいけないとしても、それぞれが想定している「人」のあり方が違うのではないかと、素人ながらいつも感じています。そのあたりは、当時どう考えられていたのでしょうか。

川濵先生:先ほどの話では省略していましたが、基本的に、一般消費者の利益を確保することが独禁法の目的に入っていますから、消費者の利益を考えることは重要なはずです。ただ——これはアメリカでもヨーロッパでも非常に議論のあるところですが——消費者の利益、消費者の厚生が害されることが独禁法の「要件」なのかというと、多分そうではないんですね。消費者の利益が害されることを直接の要件にしてしまうと、規律ができない場合が多いんです。それではかえって消費者の利益が侵害されることになる。具体的に分かるのは、消費者の利益を害する潜在能力を持つ市場支配力が、競争の低下の結果、生まれるか生まれないかが問題になってくる、というところなんですよね。

今の消費者保護の問題には、私も大変関心を持っています。日本の独禁法は、市場支配力の形成・強化など競争への具体的悪影響が生じる行為を規律するだけでなく、優越的地位の濫用のように、経済的力が強い者が一方的に不当な不利益を課すタイプの行動も規律するようになっています。特に今、取適法(旧下請法)やフリーランス法のように、この側面での規律は日本では発達しています。しかし、強い者が一方的に不利益を課す行為というのは、消費者保護の観点からいくと、まさに不公正な行為の典型でもあります。アメリカにおける連邦レベルでの消費者保護の一般規定であるFTC法(連邦取引委員会法)5条は「不公正な取引慣行」を規制しますが、この不公正な取引とは何かというと、要するに、消費者に対して回避可能性のない不利益を一方的に押し付けることなんです。つまり、不公正な取引から消費者を守る一般条項的なものです。一方日本では、対消費者型の優越的地位の濫用というのは規制例もなく、多くの方の念頭になかった。最近になって、プラットフォーム事業者が行う一定の行為についてだけは対消費者の優越的地位の濫用が問題になると、公取委が明らかにしただけです。これをもう少し拡張することによって、問題のある事例に適切に対処することができるのではないか、ということが課題になります。

川濱先生写真
追手門学院大学法学部教授、Nextcom監修委員会委員長を務める川濱先生

条文だけを見れば、対事業者に限らず不公正な行為を規制できるようになっていますし、そのような規制のニーズは高いだろうと思います。消費者保護法の中に、そういった不当な不利益を押し付けるような不公正慣行を規制する条項があれば、それに越したことはないけれども、それがないんですよね。これに限らず、優越的地位の濫用型の規制——他人に不利益を押し付ける行為の規律——は、別に独禁法を待たずに一般私法の中に入っていてもおかしくないし、そういう国もありますが、日本の場合、一般的な経済力の濫用型の行為に対する規律が私法の方にきちんとビルトインされていなくて、優越的地位の濫用にしか頼るものがない。だとしたら、今の消費者の問題もそこで受け止めるしかないんじゃないか、と。もちろん、消費者保護の中にきちっと作って、それをサポートする枠組みがあればそれにこしたことはないですが。

もともと、景品表示法ができたきっかけになったのも、あの手の不当表示型の行為を規制する法律が独禁法にしかなかったからなんですよね。しかも、不公正な取引方法の規定は一般条項としてもっと使われてもよさそうなものなのに、あまり使われてきませんでした。使われてこなかった条文を使うには、いきなり一般条項型の運用をするわけにはいきませんから、そのために必要な条件は何かということを、解釈論として精度高く詰めるとともに、それを支える政策論的な証拠も集めて議論する。それが学者には必要なんだと。この後も考えられる方向じゃないかと。

そのときには、行動経済学的なビヘイビアに付け込む行為が、とりわけ巨大なデジタル・プラットフォームの持つ情報優位性と、対消費者へのマニピュレーション能力の増大によって増しているわけですから、その問題を競争法の問題として考えていくことが重要です。同時に、先ほど言った通り、一方的に不利益を課す行為への規律は、日本における競争法の大きな領域です。確かにこれはアメリカの独禁法にはなかったけれども、アメリカの独禁法にないものが昭和28年の改正で日本に入りました。類似の規制はEUにもないけれども、EUの加盟国にはある。だとしたら、それはやはり競争法の世界の問題としても重要なんじゃないでしょうか。我々はアメリカやEUの競争法をやっているわけではなく、日本の独禁法をやっているのだから、日本のコンテクストでは重要性のある規定だし、それを独禁法と別物と単純に考えるよりは、独禁法を補完するものとして位置づける。それは従来の独禁法の学者が考えてきたことだし、その方向の議論ができるんじゃないかと。これは舟田先生も、多分同じように考えておられるんじゃないかなと思います。最近の若手なら、和久井先生などがそのあたりを強調しておられるようですし、消費者保護との連動を視野に入れる学者も増えてきました。

FTCと個人情報保護——アメリカ消費者保護法制の意外な歴史

加藤:私のバックグラウンドには個人情報保護があるのですが、アメリカにおける個人情報保護の拠り所も、やはりFTC法5条なんです。同条には「不公正または欺瞞的な行為」が入っていて、その中でデータ保護・プライバシー保護に関わるところを読み込む、ということになっています。個人情報保護やデータ保護を研究している立場からすると、アメリカでは競争法的なところと、消費者法的なところと、データ保護が交錯しているように見える部分があって、そこがまだまだ読み解けていないなと感じていたところでした。

川濵先生:その問題は、学部・大学院と私の指導学生だった立教大学の早川雄一郎先生が、今在外研究で、まさに取り組んでいるテーマのようです。個人情報保護、消費者保護と競争法のインターフェイスに関わる問題を詳細な比較法を通じて研究を進め、その成果を出版予定と聞いております。

もともとアメリカには、連邦レベルの一般的な消費者保護法も、消費者保護の機関もないんですね。だからFTC法5条を一般法として、それにFTC法所管のいくつかの消費者保護的な立法が組み合わさる、という形での規制体系になっているんです。余計な話ですけれども、アメリカでも、連邦レベルの消費者保護法を作り、強力な連邦消費者庁を作る、という動きは1970年代に何度かあったんです。超党派でかなり上手くいきそうなときもありましたが、反対派のロビーイングによって挫折しました。1978年に最後の試みが頓挫してしまい、規制緩和がトレンドになったこともあり、それからは二度と、連邦レベルの消費者保護法・消費者保護機関を作ろうという機運は盛り上がりませんでした。連邦レベルの消費者保護法・機関を作ることは、政治的アジェンダから消えてしまったんです。個人情報保護関係も各州レベルの規律で、連邦レベルでは担当する法律も担当官庁もない。仮に法律を作ったところで、執行機関がない限りは全く意味がありません。しかし、新たにそんな省庁を作るだけの余裕もない。となってくると、結局、連邦レベルで消費者を保護するとなればFTCに頼るしかない。事業者が消費者に対して不利益を与える行為として個人情報を取得すれば消費者保護の中に入ってきます。とりわけ「欺瞞的行為」に欺瞞的な個人情報の取得が入ってくるのは明らかだし、「不公正な慣行」には一方的な不利益の押し付けも入ってくるから、例えばダークパターン系の話も入ってくる。それで射程が広いんですね。

加藤:アメリカのデータ保護に関する調査でFTCを訪問したことがありました。私のイメージではFTCは消費者保護やデータ保護の機関という印象が強かったのですが、なるほど、もともとは競争政策の機関で、ここでは三つが重なっているんだなと実感しました。グローバル・プライバシー・アセンブリー(旧・プライバシーコミッショナー会議)という、各国のデータ保護を所管する機関の大臣級が集まる会議があるのですが、アメリカからは担当のFTCの委員が出席しています。FTCの権限が広範囲であることがわかります。連邦法としてのデータ保護法がない中で、毎年議員からは連邦法として制定するという法案が出ているような状況です。FTCのヒアリングで「もし連邦法ができたら、どこが所管するのが適当だと思うか」と聞いたら、担当セクションの方々は「もちろん我々だ」と言っておりました(笑)。

川濵先生:動かすときに人員がいないとダメだし、チームを作るのは簡単ではないでしょう。例えば、FTCの消費者保護法関係の事件って、非常に多いですよね。あれはすごいなと思いますよね。

加藤:確かにそうですね。FTCでは、技術的なインベスティゲーション(調査)の力をつけていて、スタッフ数を増やしている、ということも言っていました。特にリナ・カーン委員長の時代に——以前から計画されていたものだそうですが——プライバシーのブランチができて、技術的な機能も拡充して、スタッフが50名ほどいると聞きました。ところが、たまたまその直後ぐらいに、カリフォルニア州のプライバシー担当のデータ保護機関の担当者と話をしましたら、「カリフォルニア州もプライバシー保護にすごく力を入れていて、我々の機関にはスタッフが53名いる」と言われまして。3名多い(笑)。

川濵先生:カリフォルニアは、州レベルの独禁法も最近強化しているんですよ。

加藤:そうなんですか。

川濵先生:それこそ、州レベルで独禁法改正のための研究会・検討委員会を作って、その委員会の中に重量級の経済学者や独禁法の専門家が入って改革の提案を行っています(Staff Memorandum, 2025-21 Draft Language for Single Firm Conduct Provision, Calif. Law Revis. Comm. (Mar. 24, 2025))。トランプ政権になってから、FTCとDOJ(司法省)はともに人員を削減されて、今は現状維持のことをやるので精一杯ぐらいになって、事件が動かせなくなってきたり、あるいはFTC・DOJともに職員のモラール(士気)が下がって、なかなか大変になっているという話は聞きます。まあそれは、今のアメリカではすべての官公庁に言えることかもしれませんが。

加藤:今日的には「ブリュッセル・エフェクト」と言われますが、あれももともと「カリフォルニア・エフェクト」から来ている——これは『The Brussels Effect: How the European Union Rules the World』の著者のアニュ・ブラッドフォードが冒頭に書いていることですが——という話もあります。カリフォルニアの規制が全州に広がる、というのはおそらく規制分野全般の話で、データ保護ですと、データ漏えいをした時に通知義務を課すデータ・ブリーチ・ノーティフィケーションの州法が、今や50州すべてにあります。連邦法はないけれども、50州にあるので、アメリカでは事実上守らなければいけないルールになっています。州法も全く無視できないというか、むしろ州法の方が先を行くという点では重要だったりします。

川濵先生:今で言うと、環境規制、排ガス規制ですね。カリフォルニアのGDPは日本全体に匹敵するレベルの規模がありますから、そこで規制が入ると、経済全体へのインパクトが大きいということもあるんでしょうね。

加藤:そういう意味では、カリフォルニア州は今、独禁法の世界でも面白い存在なのでしょうか。

川濵先生:アメリカでは州の法務長官が連邦反トラスト法を州民のために執行できますし、州レベルでの反トラスト法もあり、カリフォルニアに限らず州レベルで活発に執行されています。例えば、Googleの検索に関する訴訟や、Metaの一連の買収に対する独占違反の訴訟は、連邦のDOJやFTCとともに州——しかも、この場合はいわゆるレッドステート、共和党系の州の司法長官たちも一緒に——が訴訟を起こしています。州も一緒に力を出す、というのは多いと思いますね。連邦が認めた企業結合を州が提訴することもあります。例えばテレコムで有名なTモバイルとスプリントの企業買収事件です(New York v. Deutsche Telekom AG, No. 1:19-cv-05434-VM-RWL, slip op. at 57 (S.D.N.Y. Feb. 10, 2020))。結論は州の敗訴ですが、かなりきわどい判断だったと思いますし、当事者にとっては大きな負担だったと思います。

(次回に続く)

川濱先生写真
川濱先生(左)とNextcom編集長加藤(右)

川濵 昇(かわはま のぼる)
1981年 京都大学法学部卒業
1986年 同法学研究科退学、同助手
1988年 京都大学法学部助教授
1995年 京都大学大学院法学研究科教授
2023年 京都大学名誉教授
2023年 追手門学院大学法学部教授

<主な学会活動>
日本経済法学会理事(1999年から、2017年から2023年まで理事長)
日本国際経済法学会理事(2012年から)
日本消費者法学会理事(2019年から)等

<主な社会活動>
経済産業研究所ファカルティフェロー(2006年から)
総務省情報通信行政・郵政行政審議会会員(2013年から2023年まで、2021年から2023年まで会長)
公正取引委員会独占禁止懇話会会員(2010年から2015年まで)等