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サイバネティック・アバターの法的課題 サイバネティック・アバターの関与者が死亡した場合の法的問題(死後CA)
概要
既に多くの人がメタバースを利用している。2026年に公表されたある調査によれば、日本全国15~69歳の生活者の8%、約670万人の人がメタバースを2-3ヶ月に一度以上利用しているとされており、既にアバターの利用はインフラ化している。このような中、アバターに関与する者が死亡することがあり得る。本稿は、このような場合の法律問題について、先行研究を踏まえ、その関与者を類型化し、その類型ごとの死亡後の対応について検討したものである。
第0 連載を始めるにあたって
これまで、ムーンショット研究開発事業に関するサイバネティック・アバター法研究[1]として、様々な論稿を公刊させて頂いた。例えば、2024年には、『サイバネティック・アバターの法律問題』(弘文堂、2024年)を刊行させて頂いた。この度、KDDI総合研究所様が新しいweb媒体を開始されたということで、こちらにご掲載頂けることになったこと、心より感謝している。
筆者は、遅かれ早かれ誰もがアバターを利用する「アバター社会」が到来すると信じており、その時代に備えたアバター法を研究することが、そのようなアバター社会の法的インフラとして重要となると確信している。もちろん、筆者の論稿そのものがかかる法的インフラに資するというよりも、むしろ、「叩き台」としての筆者の論稿をきっかけに議論が活性化することこそが、筆者の希望するところである。
第1 はじめに
サイバネティック・アバター(CA)とは、人の身代わりとしてのロボットや、3D映像等を示すアバターに加えて、人の身体的能力、認知能力及び知覚能力を拡張するICT技術やロボット技術を含む概念であり、Society5.0時代のサイバー・フィジカル空間で自由自在に活躍することが期待されている。既にClusterやVRChat等のメタバースプラットフォーム上でアバターを利用している人も増えている。2026年に公表された統計データによれば、既に日本全国15~69歳の生活者の8%、約670万人の人がメタバースを2-3ヶ月に一度以上利用しているとされており、相当多数の人が継続してアバターを利用する等、既に一定以上インフラ化している[2]。そのような状況においては、アバター関与者が死亡することも想定しなければならない。このような関与者の死亡後のCAを「死後CA」と呼ぶが、このような場合には、生前と異なる法的問題が生じる可能性がある。そこで、この問題を検討していきたい。
ここで、本稿が検討する問題に類似するものの厳密には異なるものに、既に死亡した芸能人等をアバターで甦らせることに関する法律問題がある。この論点については既に先行研究が豊富であり、本稿はそのような死後に新たにアバター化する場合を検討対象としない[3]。
本稿が対象とする、関与者の生前からアバターが利用されていたものの、当該関与者が死亡したという場合の法的問題については、重要な先行研究として中川がある[4]。もっとも、中川はいわゆるアバターの主宰者[5]を「本人」と呼んで、その主宰者の死亡を問題としている。しかし、CA関係者としては、主宰者以外にもモデル(アバターの画像にその肖像が利用されている者)及び操作者(実際にアバターの手足を操作し、声を出す者)もあり得る。もちろん、実務上、一人が「主宰者兼モデル兼操作者」ということもあり得るが、それだけではなく、これらが分属することがある。
そこで、以下では、これらが分属する可能性を視野に入れながら、誰の死後かという点にフォーカスする。第2では主宰者、第3ではモデル、第4では操作者の死を検討する[6]。
第2 主宰者死亡後のCA
1 主宰者死亡後に生じ得る状況
主宰者死亡後においては、CAには様々な状況が生じ得る。そのような状況は生前のCAの活動方法にも依存するだろう。CAの活動方法としては、①人間による操作、②固定発言の再生[7]、及び、③生成AIによる自律的活動等が挙げられる[8]。
| ・①人間が操作する場合、主宰者が操作していた場合には、原則として主宰者死亡後は何も活動しなくなるだろうが、操作者がいる場合は引き続き操作者が操作することがある。 |
| ・②固定発言を再生する場合、基本的には死亡後も、特にプラットフォーム等との関係で再生が止められない限り、再生され続けるだろう。 |
| ・③生成AIの自律的活動、例えば、そのAIについて「主宰者がAIエージェントに特定の活動、例えば取引を任せている」ということであれば、相手はそのAI駆動CAを主宰者と同様に扱ってやり取りをすることになる。その結果として、死亡した旨が明示されないと、相手が主宰者が存命中と信じ、相手方として、そのAI駆動CAに対して、契約等を締結するための意思表示を行うことがある。 |
| ・いずれであっても、主宰者死亡後には管理が不十分となりやすいので、ハッキングされる場合が増える。また、主宰者死亡後はなりすましに対する権利行使も不十分となりやすいので、なりすましがされる場合も増える。 |
| ・プラットフォームは主宰者死亡後CAを活動させ続けるか、どのような形(例えば死亡済みであることを表示した上で)で活動させ続けるかが問題となる。 |
ここで、何が相続の対象となるか(下記2)、及び、主宰者死亡後に、その事実を秘して活動を継続していいのか(下記3)という問題はほぼすべての論点に共通するので、まずはこれらの点について検討したい。
2 何が相続の対象となるか
民法896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。但し、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。」とする。問題は、CAとの関係で何が一身専属権(「被相続人の一身に専属したもの」、同条但書)とされるかである。この点はSNSの文脈で議論がある[9]。
栗原[10]は、SNSアカウントデータの相続人への移転という問題について、「デジタル遺品の検討にあたりデータの移転を根拠づける「相続」には、個人データの移転という財産的価値以外の要素が不可分に結合して」いると指摘し、伝統的な「相続」可能性から議論を出発させ、諸外国の例を挙げたが、法的に解決することの困難さを明らかにした。そこで、今後は、「「相続」を端緒とするDP(筆者注:データポータビリティ) の制度が立法論、民間事業の取組みとしてあるべき」[11]として、法的な解決は難しく、立法論や民間業者の取り組みとしてのデータポータビリティでの解決を模索する。
これに対し、大塚[12]は相続性肯定説と否定説の相違が、相続⼈等が利⽤者の過去の投稿を閲覧することができるか否かという点にあり、いずれの見解からしても相続⼈等が利⽤者本⼈として投稿すること、及び、他⼈の投稿を閲覧することは許されないとし得た上で、デジタル空間における円滑なコミュニケーション阻害を防ぐため、相続⼈等が利⽤者の過去の投稿を閲覧することは一身専属性を理由に(被相続人の明示の同意や特段の事情がない限り)否定しながらも、被相続人の人格利益を保護する目的での相続人による投稿やアカウントの削除は相続人等の権限として認めて良いとする[13]。
臼井はアバターの文脈で、財産的価値のみに焦点を当てるべきではなく死者の人格の保護やフォロワーとの人的絆を重視すべきであり、相続人が被相続人になり変わってアバターに扮し続けるのは背信的行為の様に思えてならないが、AITuberの場合には勝手にコミュニケーションを継続する可能性があることから、改めて死者の人格保護という視点が重要な役割を果たすとする[14]。
3 主宰者死亡後に、その事実を秘して活動を継続していいのか
(1)限定的ではあるが、主宰者死亡後に操作者等が死亡の事実を秘して活動を継続して良い場合があること
主宰者死亡後も、例えば人間の操作者がいればその操作者が、AI駆動であればAIがアバターを操作し続けることは可能である。ただ、そのような死亡後もそれを秘して活動を続けることは、周囲の人をだますことにならないか。
中川は、周囲の人が本人が故人となっていることを知らないという誤解を招き、契約をさせるならそれは詐欺になるとして、「CAは本人が既に死亡していることを明示的に表現しなければならない」[15]とする[16]。もちろん、欺罔行為を認めるべきではないという限りでは中川の見解には賛同できる。
ただ、主宰者が死亡している事実を秘して活動を継続することが常に問題なのか、という点は一考に値する。例えば、公式の死亡発表が何日か後に予定されており、その間は特に従来と変わらずに振る舞いたい/振る舞わせたいといった心情は理解できるし、そのような合意がある場合も存在する(下記4(1)ア)。もちろん、その結果として「もし主宰者が死んでいたら契約をしなかったのに、それを知らず契約してしまった」といった状況はあり得ることから、例えば「主宰者を拘束させる趣旨の契約は締結しない」等の制限を課すべきであろう[17]。但し、そのような前提の下では、死亡を知った後、一定期間死亡を秘したまま活動をするというだけで直ちに違法とは言えないのではないか。
(2)主宰者死亡に伴い、アバターが活動を終了した場合
なお、死亡後に当該アバターが活動をしなくなれば、死亡を秘して活動を継続することの問題は生じない。但し、本物のアバターが活動を停止し、特に主宰者の死亡がアナウンスされないとすれば、なりすましが跳梁跋扈し、主宰者の死亡によってそれに対する適時の適切な対抗ができなくなる可能性がある。この点は、そのような可能性を踏まえ、①第一義的には主宰者本人が死亡のアナウンスや死亡後のアバターの活動についてアレンジを行い、合意に基づき関係者が対応するということになるだろう。但し、②主宰者が適切な対応をしない場合に備え、プラットフォームが、そのプラットフォームの安全を守るための対応として、例えば一定期間活動がない場合のルール等を定め、当該ルールに従って活動を停止したアバターとの利用関係を解消するとか、第三者に乗っ取られないよう追悼アカウントとしてラベルを付して発言等を禁止すること等も必要である。
4 操作者との関係
人間操作型については、(5で後述のプラットフォームとの合意等に加え)操作者との間の合意が問題となる[18]。以下、合意がある場合とそうでない場合を区別して検討する[19]。
(1)合意がある場合
ア 死後(一定期間)操作を継続することの合意がある場合
操作者との間で死後も一定の条件で操作者が操作を継続することについて合意することはあり得る。例えば、「本人を追悼したいファンとの間で生前と同様のやり取りをこの期間継続する」といったニーズがあれば、(死亡を秘匿すべきか、明らかにした上で対応するかは上記3のとおりであるが、)合意に基づきそのような対応をすること自体はあり得る。
イ 死亡にともない操作を終了することの合意がある場合
合意に従って操作を終了することは通常問題がない。なお、このような合意に基づき終了した場合には、周囲の主宰者と交流があった者等から「この日からアバターが止まっている/ログインがないがどうしたのか?」等と訝しがる場合はあるだろう。(上記3の範疇を超えた、)誰が死亡の公表の権利を持つかという問題そのものは本稿の対象外であるが、死亡の公表によって、遺族の敬愛追慕の情[20]の侵害等の可能性はあるものの、上記3で述べたなりすまし等のリスクに対抗する利益が優越するとして操作者の方で開示することが可能な場合もあるだろう。
ウ (単なる不作為を超え、)アカウント抹消等の合意がある場合
なお、単なる不作為を超え、アカウントを抹消する等のプラットフォームとの関係の対応を行うことについて、主宰者と操作者の間で合意がある場合、操作者は当該合意に基づき主宰者との関係では当該対応を行う義務を負うのだろうが、それがプラットフォームとの関係でも認められるかは問題となる。確かに、IDとパスワードを知っていれば、事実上抹消することはできるだろうが[21]、プラットフォームの利用規約等の制限に服する(下記5参照)。よって、プラットフォームがアカウントの削除等を請求できる者を利用規約で遺族に限定していれば、遺族ではない操作者は少なくとも法的には削除請求はできないことになる[22]。
(2)合意がない場合
合意がない場合、当該操作に関する契約の性質にもよるが、委任契約の性質であれば、民法653条1号は「委任者又は受任者の死亡」を委任の終了事由とする。よって特段の合意がなければ、委任者である主宰者が死亡すると、委任関係が終了することになる[23]。
5 プラットフォームとの関係
(1)合意がある場合
中川は、本人の死亡確認と同時に消滅、本人の死亡後も期間限定で存続、本人の遺族などが相続、及び、本人のメモリアルとして永続的に存続というパターンがあるとする[24]。
上記のとおり、プラットフォームとしては主宰者の管理が行き届かなくなった主宰者死亡後のアカウントに対しては、生前と同様の管理状況であれば、乗っ取り等の不正行為のリスクが増大することへの対応が重要となる。
消滅を規定する利用規約としては、Vket[25]やholoplus[26]等が挙げられる[27]。
本人の遺族などが相続する可能性を認めるものとしてSecond Lifeは遺言とプラットフォームの承認を求める[28]。
追悼アカウントについては、Metaの追悼アカウント制度が有名である[29]。
基本的には、これらの内容が定型約款法理(民法548条の2参照)等に基づき合意内容に含まれるとされ、かつ、消費者法その他の強行法規に違反しないのであれば、その合意は有効である[30]。
(2)合意がない場合
合意がない場合には、上記2の議論が基本的に当てはまることになるところ、被相続人(主宰者)の人格的利益を保護する限りの対応をプラットフォームは自ら行うことが正当化され、また、遺族による人格的利益を保護するための対応を認めるべきということになるだろう。とはいえ、何が人格的利益を保護するための対応かは必ずしも一義的に明確ではない。よって、予防法務的対応としてはプラットフォームとして適切なルールを利用規約等に定め、それが適法有効な合意となることを確保することが妥当である。
(3)固定発言特有の問題
いわゆる「ボット」のように、固定的な発言をするだけであれば、そもそもそれは主宰者の「身代わり」としては受け止められず、それが活動しているか否かは、主宰者が生きているか否かとは関係がないと受け止められるだろう。ある意味では、もしそれが、誰もがそれが本人のリアルな活動ではないと考えるような応答に留まる限り、法的には死亡の影響はないかもしれない。
但し、固定発言に過ぎないとしても、録画時期を示さず、あたかもその時点又は近接した時点で本人が発言したかのように受け止められる場合、とりわけ、当該発言(再生された発言)について、死亡後の状況の変化によってその意味が変わってしまう場合にはなお問題となり得る。例えば、アバター主宰者であるAが固定発言を録画し、その中でその当時は大変素晴らしいとされていた人であるBについて褒め称え、当該アバターが当該固定発言を繰り返していたところ、Aの死亡後にBが炎上して社会的非難を浴びたため、その固定発言が、「AもBの仲間ではないか」として、ネガティブに捉えられるようになる、といった場合があり得る。
このような場合、遺族がアカウント削除や発言除去を求めることがあり得る。上記(1)のとおり、プラットフォームは一定の条件、例えば遺族の申請によりアカウントを削除する旨の合意があればその合意に従い、例えばアカウントを削除することになる。上記(2)のとおり、合意がなくとも、これは死者の人格保護に必要な場合として、アカウント削除の請求が可能であるべき場合だろう[31]。また、Bの炎上に伴いAも炎上し、プラットフォームが「Aが死亡している」ということに気づいた場合、プラットフォームとして、(遺族の申し出がない中で)死亡を理由とする削除権を行使できるかは、上記(1)のとおり合意があればその合意に従い、上記(2)のとおり合意がなくとも、このような炎上対応のための削除は死者の人格保護に必要な場合とみなし得るだろう。
(4)AI駆動特有の問題
AI駆動アバターについては、まさにその搭載されたAIにもよるが、本人が死亡していることを全く気づかせないような形で、従来と同様に交流し、例えば従来と同様に契約を締結する可能性がある。
要式契約でなければ意思表示の方法に制限はなく(民法522条2項参照)、AIをいわばツールとして利用した意思表示そのものは可能である[32]。よって主宰者が一定のアルゴリズムに従って契約を締結することを意図してそのようなAI駆動アバターを利用した場合、生前は当該AIの利用が本人の選択した意思表示の方法として契約が有効とされる可能性が十分にある。もっとも、権利能力の制限等を乗り越えられるものではない。そこで、もはや本人が権利能力を持たない主宰者の死亡後には、原則として有効な契約を締結できないと見るべきである。
遺族との関係については基本的には(3)と同様となるものの、仮にこのような死後もAI駆動アバターが契約締結を継続することそのものが死者の人格に悪影響がないとしても、無効な契約を締結させるべきではないという観点から、遺族によるアカウントの閉鎖やAIの活動停止等は通常は正当化されるだろう[33]。同様に、プラットフォームも利用規約(上記(1)参照)等に基づきアカウントの閉鎖やAIの活動停止等を行うべきであろう。
第3 モデル死亡後のCA
1 はじめに
特定の存命中のモデル[34]を利用したCAが活動を始めた後、そのモデルが死亡することがある。このような場合については、契約の有無で分かれるだろう。
2 契約がない場合
ファンアカウントやなりすましアカウント等の契約が存在しない場合についての存命中の肖像権侵害等の有無については、既に『サイバネティック・アバターの法律問題』で論じている[35]。もっとも、モデルが死亡することで、人格権が消滅し、もはや請求ができなくなるのではないか。この点は、肖像権については死亡とともに消滅するとされるが、パブリシティ権については両説あり、利用態様次第で死者に対する遺族の敬愛追慕の情侵害は成立する可能性があるとされる[36]。
そこで、モデル死後におけるアバターの具体的な利用態様が、それが存命中に公開されていた場合において、モデル本人に強い羞恥心や不快感を抱かせ、自尊心を傷つけ、社会生活上受忍すべき限度を超えてその名誉感情及び私生活の平穏を不当に侵害するであろうものであれば、それが死後であることを踏まえても、なお、モデルの遺族の敬愛追慕の情侵害が認められる可能性は十分にあると思われる[37]。
そうではない、例えば、ファンが自分が好きな芸能人の写真を利用し、かつ、利用の節度があるものであれば、そもそも生前もモデルのパブリシティは保護の対象にならない可能性がある[38]。そうすると、死後においてはパブリシティ権での主張が更に難しくなる可能性がある。
3 契約が存在する場合
そもそも契約が存在する場合には、その契約の内容次第となる。つまり、契約上モデルの死後も利用可能かという点が問題となるだろう。例えば、死後も一定の条件、例えば利用料支払いを条件として利用が可能ということであれば、主宰者は、モデルの死後も適法に利用し続けられるが、遺族はその利用料に関する権利を相続することになる。
これに対し、利用がモデルの存命中に限ると合意され、その合意が死亡後においても遺族にその合意に違反した場合の契約に基づく差し止め請求権を与えるものと解釈されれば、(上記2の検討の結果、必ずしも当然には人格権に基づく差し止めを請求できないとしても、)契約上の差し止めの余地が発生することが相違点である。
第4 操作者死亡後のCA
単に操作者が死亡して交代するというだけであれば、操作者との契約が受任者の死亡(民法653条1号)により終了するというだけで、法的問題は大きくないだろう。
ただ、例えばそのアバターにおいて、操作者の具体的な振る舞いが評価されることがある。SNSであれば、いわゆる「ゆるい」企業系アカウントが評価されることがある。これはその投稿自体は会社としての承認を得ているものの、その発意をする担当者の操作が評価されることになる。
企業によるアバター接客で、アパレル企業がバーチャル接客を踏まえてリアル店舗への来店が実現した例[39]のように、操作者にファンが生まれることはメタバースでも生じている。
主宰者が自然人であるアバターの場合、操作者の振る舞いが単なる主宰者のマネ[40]を超え、その操作者特有の(主宰者のアバターであるという本分の範囲内における、)当意即妙の返し方等が人気になることがあり得る。
また、OriHimeによるカフェにおける接客でも、パイロットと呼ばれる操作者ごとに個性があるとされる[41]。
そうすると、このような操作者の特徴的な操作(アバターを利用した言動)に価値があるとされた場合については、主宰者として、当該操作者が死亡した後もAI等を利用して引き続き当該操作者独自の言動を再現したいと考えるかもしれない。
ここで、単なる技術承継の場面であれば、企業は合理的な範囲で労働者のデータを取得することが可能であり、その結果として例えばAI化やロボット化の余地がある。しかし、ここで問題となるのはそのような業務プロセスのコピー(AI化)ではない。既に労働の文脈において、労働者の人格が含まれる場合に、そのデジタルパーソン等のAI化は本人の人格権との調整が必要とされている[42]。
操作者本人との合意があればその合意内容によるだろうが、特に、その合意がない場合に、既に取得済みのデータを利用して再現をすることができるかは難しいところである。
例えば操作者が主宰者を真似する場合にデータの中には「主宰者に近い部分」と「主宰者にない操作者オリジナルの部分」の双方がある。そして、そのような複数の部分が存在する中で、声について操作者は主宰者を忠実に真似ているとなれば、その声の部分について操作者固有の権利をどこまで認めるべきかは課題がある[43]。むしろ、「個別の、主にアドリブの言動」の再現に焦点があたるだろう。確かにこの部分について著作権法上の実演等が成立する可能性があるものの、「その実演」の送信可能化が権利範囲であって、その実演と異なる似たものは必ずしも保護されるとは限らない[44]。
なお、死後もAI等を利用して操作者が生前に行っていたものと類似の言動を引き続きアバターが行う結果として、例えば「下品な言動」をアバターが行っても、それは基本的には、「主宰者」の言動とみなされ、「操作者独自」の部分について遺族の敬愛追慕の情が害されるまでに至ることは少ないように思われる。
第5 おわりに
以上、死後CAの法律問題について、中川の議論を踏まえてもう一歩先に進めることを試みたが、まだまだ死後CAの法律問題は奥が深い。是非本稿がキッカケとなり、更なる死後CAに関する議論が広がって欲しい。
〔付記〕本稿は、JSTムーンショット型研究開発事業、JPMJMS2215の支援を受けたものである。本稿を作成する過程では慶應義塾大学新保史生教授及び栗原佑介弁護士・同大学特任准教授に貴重な助言を頂戴した。ここに感謝の意を表する。
以上
【執筆者プロフィール】
松尾 剛行 桃尾・松尾・難波法律事務所パートナー弁護士・NY州弁護士・法学博士。学習院大学特別客員教授、慶應義塾大学特任准教授。
著書として『サイバネティックアバターの法律問題』(弘文堂、2024年)、『生成AIの法律実務』(弘文堂、2025年)、『ChatGPTの法律実務』(弘文堂、補訂版、2025年)、『法律実務家のためのインプット・アウトプット術』(弘文堂、2026年)他。

[1] 目標1 研究開発プロジェクト(2022年度採択)「アバターを安全かつ信頼して利用できる社会の実現」(PM:新保史生 慶応義塾大学総合政策学部教授)、https://avatar-life.jp/ja/about
[2]株式会社博報堂DYホールディングス「博報堂DYホールディングス、メタバース生活者定点調査2025を実施 ―メタバースは「現実の避難場所」から「現実への活力」へ。体験がリアルの消費行動と挑戦意欲を加速―」2026年3月30日( https://www.hakuhodody-holdings.co.jp/news/corporate/2026/03/6418.html)
[3] この点については、白石友行「AIと民法(Vol.5)AIと人の法(4)死者のAIアバターと人はどのような関係にあるか」税経通信80巻11号(2025年10月)6頁以下、福井健策「よみがえる故人たち―偉人アンドロイド・作家AIと肖像権、著作権、尊厳―」情報通信政策研究5巻1号(2021年)131頁、福井健策「不気味の谷の法律問題―亡くなった人物を模したアンドロイドの制作はどこまで自由か そこにはどんな権利問題・責任問題があるか」Nextcom2020年42号(2020年)18頁、吉永京子「AIによる故人再現をめぐる法的・倫理的課題」人工知能学会全国大会論文集JSAI2025、4Q3-OS-23-04(2025年)及び斉藤邦史「人格のデジタル・レプリカに関する法政策」人工知能学会全国大会論文集JSAI2025、4Q3-OS-23-05(2025年)を参照。
[4] 中川裕志「本人死後のサイバネティック・アバターに関する考察」日本ロボット学会誌41巻1号(2023年)9頁(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jrsj/41/1/41_41_9/_pdf)
[5] なお、「中の人」という表現がよく用いられるが、例えば芸能人がそのアバターの日常の操作は事務所に任せているという場合、芸能人本人が「中の人」なのか、日常的に操作している事務所の担当者(マネージャー等)が「中の人」なのかという問題がある。本稿では芸能人の方を主宰者、事務所の担当者の方を操作者と呼んでいる。
[6] なお、外国のプラットフォームの場合には、準拠法が問題となるところ、本稿は日本法を前提とする。なお、アバターと国際私法につき北澤安紀「CAと国際私法(国際裁判管轄、準拠法)」君嶋祐子他『サイバネティック・アバター(CA)と法』(弘文堂、2025年)446頁以下所収及び松尾剛行=杜雪雯「メタバース・アバターと国際私法―国際私法理論に何をもたらすか」小塚荘一郎=曽野裕夫『デジタル資産とアバターの民事法』(商事法務、2025年)271頁以下所収を参照。
[7] 例えば、その主宰者が芸能人で本人に有名な「決め台詞」等があれば、他のユーザに声を掛けられた場合にそれを発言するということが考えられる。なお、例えば、相手の言動に応じて事前に準備した複数の発言のどれかを使い分けるということもあり得るが、それが高度化すると、次の③に至る。ここで、本稿では、本人が委ねた範囲で自律的に本人の代わりに契約締結を含む活動をするのが③、そうではなく、あくまでも「本人を模した偽物」の域に留まるのが②としているが、当然のことながらグレーゾーンは存在するだろう。
[8] 具体的状況の下では、日常では②又は③だが、イベント開催時等一時的には①となるといったハイブリッドの場合も存在するだろう。
[9] 以下に紹介する栗原(2020)、大塚(2024)、臼井(2025)の他、湯淺墾道「故人のデジタルデータの扱い」情報の科学と技術71巻11号(2021年)491–495頁も参照
[10] 栗原 佑介「デジタル遺品の法的問題: SNS アカウントのアクセス権の相続性を中心に」情報ネットワーク・ローレビュー19号(2020年)75頁https://www.jstage.jst.go.jp/article/inlaw/19/0/19_190011/_pdf/-char/ja
[11] 同79ー80頁
[12] ⼤塚 智⾒「デジタル財と相続 —死後におけるSNSアカウントの帰属と管理」有斐閣Online
[13] なお、大塚智見「死後の個人情報の保護―名誉・著作者人格権との比較を通じて―」「情報通信政策研究」8巻1号(2024年)59頁も参照
[14] 臼井豊『デジタル遺品研究』(成文堂2025年)498-499頁
[15] 中川前掲12頁
[16] なお、臼井前掲も同旨と理解される
[17] 課すべき制限の具体的内容は更に検討が必要であるが、例えば「積極的に嘘はいわない」等が挙げられるかもしれない。
[18] 中川は、 本人死亡後のCAのプログラムの変更の可否や、死亡後において他者とどのように交流するか(外見を見るだけか、外見を変化させるか、呼びかけに応答するか、呼びかけに応じて外見も変化するか)についての合意があり得るとする。なお、死後委任事務については、大島義則「死後事務に関する法的スキーム設計と死後事務委任契約」法学セミナー 788 号(2020)40 頁以下、とりわけ45頁も参照。
[19] なお、明示的な合意まではなくとも、合理的意思解釈の結果として、合意があると判断される場合については「合意がある場合」として分類している。
[20] 名誉毀損の文脈につき、松尾剛行=山田悠一郎『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務 第2版』(勁草書房、2019年)167頁参照。
[21] 但し、プラットフォームの方で、乗っ取り等の不正アクセスによる抹消等を防ぐために、更なる認証等を求め、その結果、事実上抹消することができないということもあり得る。
[22] それでも操作者が事実上削除してしまい、例えばデータ抹消期間を経過した後で遺族がデータへのアクセスを求めた等という場合、ID及びパスワードが正しければ、プラットフォームは、正しいID及びパスワードでログインした者の行為をユーザ本人の行為とみなすことができるという利用規約の規定等を持って、免責を主張することになるのではないか。
[23] 合意がない場合に「必要な処分」(民法654条)としてどのようなことが行われ得るかは別途検討したい。
[24] 中川前掲11頁
[25] Vketサービス利用共通規約第11条1項4号 https://account.vket.com/terms/?locale=ja 。 但し、自動消滅ではなく事業者が契約解除・登録抹消を行うことができるという規定である。
[26] 利用規約18条第4項 https://www.holoplus.com/terms/
[27] 本人の死亡後も期間限定で存続というパターンを探すことができていないが、Entropia Universe利用規約4.1条が365日間アクセスがないと放棄されたものとして契約関係が自動終了することから、このような規定に基づき1年間存続する場合はあるだろう。但し同11.1条はそれまでの期間に連絡することで相続による承継の可能性を認めていることにも留意されたい。
[28] Linden Lab Official:Death and other worries outside Second Life https://wiki.secondlife.com/wiki/Linden_Lab_Official:Death_and_other_worries_outside_Second_Life
[29] 利用規約4.5条4参照 https://www.facebook.com/legal/terms/plain_text_terms?locale=en_US
[30] なお、「デジタル取引・特定商取引法等検討会中間取りまとめ」(https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_transaction/meeting_materials/review_meeting_005/assets/consumer_transaction_cms101_260910_01.pdf)はダークパターン対策を打ち出しており、解約妨害はこれにより規律されることが期待される。利用規約の定める解約手続の内容が適正である前提の下、死亡時には、当該手続きに従うことになるだろう。
[31] なお、個別の発言の削除の可否は合意があればそれに従うだろう。合意がない場合において、個別の発言やその一部を選択して削除することができるか等は、更なる検討が必要と思われる。
[32] 松尾剛行『サイバネティックアバターの法律問題』(弘文堂、2024年)144頁以下、同『生成AIの法律実務』(弘文堂、2025年)328頁以下
[33] なお、遺族が希望し、かつ、プラットフォームが承継を許す場合には、遺族が当該アカウントを承継して取引を継続することがあり、それ以降はAI駆動アバターの意思表示が(主宰者の意思表示ではなく、)当該遺族の意思表示とされるだろう。その場合に主宰者交代をどのように第三者に対して示すべきか等は今後の検討課題としたい。
[34] これが主宰者自身のこともあれば、そうではないこともあることにつき、上記第1を参照。
[35] 前掲注32・76頁以下。
[36] 「肖像、声等の無断利用による 民事責任の在り方に関する検討会 取りまとめ報告書 ―生成 AI によるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」 https://www.moj.go.jp/content/001468286.pdf
[37] このモデルの肖像について、プロダクションの商品等表示(不競法2条1項1号、2号)とみなすことができる場合には、死後も引き続き生前と同様に不競法で保護され得る(注36・129頁)。そこで、このような場合には、死亡とは関係なく、権利侵害の有無の判断がされる可能性がある。
[38] とはいえ、注36・119頁は「多数のフォロワー数や閲覧数を獲得する意図を有している場合」のパブリシティ権侵害の可能性を肯定していることには留意すべきである。
[39] HIKKY「未来の働き方「メタバース接客」で171名のスタッフが集結!」2022年1月25日(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000159.000034617.html)
[40] もしそのような言動を主宰者が受けたらどのようなリアクションをするだろうかを考える、ということである。
[41] 株式会社オリィ研究所「個性と技能の融合:分身ロボットカフェにて2人で1人!? 共創アバターロボット実験イベントを開催」2022年10月14日(https://orylab.com/information/2022/10/14/fusion-of-individuality-and-skill-at-multi-avatars-event/)
[42] 松尾剛行「AI共生社会における個人情報保護」季刊労働法294号(2026年秋期)11頁 https://www.roudou-kk.co.jp/books/quarterly/21615/、同「Q&A人事労務におけるAI活用に関する法的留意点」労務事情2026年9月15日(1543号)10頁も参照
[43] この点について注36・27頁及び松尾剛行「声のパブリシティ権が認められた事案~東京地裁令和8年9月30日判決」WLJ判例コラム第385号(文献番号2026WLJCC023)2026年10月20日(https://www.thomsonreuters.co.jp/ja/westlaw-japan/column-law/2026/c261020/)
[44] 奥邨弘司=金子敏哉『概説デジタル/インターネットと著作権法』(弘文堂、2025年)225頁以下、とりわけ「当該実演が基本的にはそのまま用いられている必要があり、「特定の実演家の実演の特徴を学習した生成AIから出力された実演」は「実演の同一性が否定される」とする同226 -227頁参照。