国立西洋美術館で「にぎやかサタデー」が今年も開催
2024年8月3日(土)、国立西洋美術館は昨年に続き「にぎやかサタデー」を開催する。この日、来館者は作品を観ながら会話するなど自由な作品鑑賞ができる。「美術館の静かな雰囲気が苦手」、「小さな子供がいるから美術館は行きづらい」、日頃そんなふうに考えている人たちに気軽に来てもらうために設けられた年1回の特別な日だ。入場料も無料となる。
「静かにしなければいけない」はルールではなく空気
しかし、そもそも美術館には「会話をしてはいけない」というルールはない。外国からきたありがたいものを観させて頂くという意識が昔からあったためか、いつのまにか美術館では静かにしなければいけないという暗黙の了解、つまり「空気」ができあがった。今も国内の美術館はシーンとしていることが多い。
この「空気」の問題点は、本来オープンな場であるはずの美術館から人を遠のけてしまうことだ。特に小さな子供連れや障害者など。誰もが平等に利用しやすい場所であるはずが、「空気」がそれを阻む。「にぎやかサタデー」は、年に1回特別な枠を設けることでその「空気」を打破しようというものだ。
実は美術館において、このような「空気」が存在することも、またその「空気」への対抗策が講じられることも、世界的にみれば異色なのだ。
ワイワイ、ガヤガヤが当たり前の海外ミュージアム
海外のミュージアムでは、作品を観ながら対話するのはお馴染みの光景だ。これは大人であっても子供であっても同様だ。
図表2はオランダのアムステルダム国立美術館の様子だ。子供たちが作品を観ながら感じたことや気づいたことを活発に言い合う校外授業である。図表2(下)は同国の国宝であるレンブラントの「夜警」だ。国宝の前であっても、みんなで自由闊達に対話する、豊かな光景だ。にぎやかになっても、周りで嫌な顔をする人は皆無だ。これが普段なのだ。
世界のミュージアムが目指す「誰もが来られる場所」
先進諸外国だけでなく、世界のミュージアムはあらゆる人に対してオープンな場所を目指そうとする点で足並みが揃っている。
世界のミュージアム関係者4万人以上が加盟するICOM(国内博物館会議)の2022年大会にて、ミュージアムの定義が改訂された[1]。世の中の変化に合わせて、ミュージアムのあるべき姿も刷新された。これまでの定義にはなかった、インクルーシブ(包摂的)、アクセシビリティ(誰もが利用できる)、ダイバーシティ(多様性)などの要素が加わった。ICOMによるこの定義は、各国ミュージアムに対する拘束力などは持たないが、世界のミュージアム関係者のコンセンサスを得てできたものである。あらゆる人々を迎え入れるミュージアム像は世界標準になりそうだ。
「にぎやかサタデー」から「にぎやかエブリデー」へ
世界の流れを考えれば、国内の美術館もそれに合流していくことは必定だろう。国内で見られる「にぎやかサタデー」のような取り組みは最初の一歩だ。これを徐々に「にぎやかエブリデー」に変えていくことが必要だ。日時を特定した限定イベントのままだと、それ以外の日はやっぱり会話してはいけないかのような意図しないメッセージとして人々の意識に浸透しかねない。電車に優先席を設けたことで、優先席以外では席を譲らなくてもいいという偏った解釈に似ているかもしれない。対話しながらの鑑賞を日常的な風景にしていくことで、門戸を広げていく。国内の美術館が「あらゆる人々を迎え入れる場所」を目指すにあたっての課題はこのあたりではないか。
KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎
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参考文献
[1] ICOM
https://www.almendron.com/tribuna/wp-content/uploads/2023/08/icom2022-final-report-en.pdf