研究員がひも解く未来

研究員コラム

アップサイクルにもD2Cが効く〜ブランド公式リメイクが増えている

新しい景色

ある物語のワンシーンだ。こわれた器を修復する職人のつばめと、たまたま縁あってそこを訪れた絵麻。修復されたばかりの器を見て「これ素敵ですね」と顔をほころばせる絵麻に、つばめが説明する。

「金継ぎっていうんだ。割れたり欠けたりしたところを漆で継いで金粉で化粧をすること。金で繕ったその模様のことを『景色』っていうの。ただ直すんじゃなくて傷を『新しい景色』に変えていくんだ。これ、俗にいう世界に2つとないもの。」

図表1 金継ぎで修復された器
出所:「北欧、暮らしの道具店」の短編ドラマ「庭には二羽」

これは、国内外の日用品をオンライン販売するD2C※ショップ「北欧、暮らしの道具店」によるオリジナル短編ドラマ「庭には二羽」[1]の一コマだ。

※D2C:Direct to Consumer。ブランドが顧客とダイレクトにつながり、ブランドの価値観を直接伝え共感を得ながら商品を直販する形態のビジネス。「北欧、暮らしの道具店」は、このようなオリジナルドラマなどで自社の価値観を表現し発信している。

金継ぎは日本古来より伝わる工芸技法であり、単なる修復を超えた魅力がある。つばめが「新しい景色」、「世界に2つとないもの」と言うのはまさにそれだ。

リメイクはアパレル界の金継ぎ

古いものから「新しい景色」や「世界に2つとないもの」を生み出す営みは、アパレルの世界にも存在する。リメイクだ。複数の古着を組み合わせて新たに別の服を作ったり、古いカバンの生地を別のカバンに再生したり。古くなったものを捨てずに新しい価値に転換することからアップサイクルとも呼ばれる。新たな価値を持って生まれた商品は、これまでとは異なる「新しい景色」であり「世界に2つとないもの」だ。そういう意味で、リメイクはアパレル界の金継ぎと言えるかもしれない。そして、サステナビリティの潮流を背景に、このアパレルのリメイクが少しずつ増えている。

ブランド公式リメイクが増えている

ところで、リメイクにおいて注意が必要となるのが、リメイク品の制作・販売は、そのブランド以外の他者が無断で行うと商標権や意匠権などに抵触する可能性があるという点だ。他ブランドの服を勝手に改造して売れば問題になるのは想像に難くない。しかし逆に言えば、ブランドが自社商品をリメイクするならこの問題はなくなる。実際、ブランドによる公式リメイクが増えている。

Patagoniaのリメイクシリーズ「ReCrafted」

アウトドアブランドの米Patagoniaが、2017年にブランド公式の中古ECサイトを始めたという話は以前のコラムでも紹介した。この事業では、自社商品の古着などを回収・下取りして修理・クリーニングののちに再販するのだが、集めた商品の中には修理できないほど傷んだものも多い。そこで、そういった商品をリメイクして販売するラインナップ「ReCrafted」を2019年に立ち上げた。ReCraftedでは、3〜6点の古着を組み合わせて新たな商品に作り上げる。

古着から生まれたリメイク品だからといって決して安売りはしない。例えば、ReCrafted Down Jacketの価格は229ドルと、Patagoniaの同種で新品のダウンジャケット(250〜300ドル)に比べて大きな遜色はない。それでも顧客からは支持されており、ReCraftedのラインナップはローンチから1年半で数千着が売れ、中にはすぐに完売した商品もあるという[2]

図表2 Patagonia「ReCrafted」の商品
出所:Patagonia

MOTHERHOUSEのリメイクシリーズ「RINNE」

国内ブランドにおいても同様の動きがある。新興市場で持続的なものづくりを目指すバッグ・ジュエリーブランドのMOTHERHOUSE(マザーハウス)では、自社の古いレザーバッグをリメイクした「RINNE(リンネ)」シリーズが売れている。

2020年7月に開始したこのシリーズでは、顧客から回収した自社商品や販売されずに倉庫に眠っていた在庫商品がリメイクの材料となる。これらが解体・メンテナンスされ新しい商品として生まれ変わる。生活の中で使用されていたレザーはどれも風合いが異なるため、再生された商品には一点モノとしての価値がある。これが顧客を惹きつけているようだ。

同社代表取締役副社長の山崎大祐氏はこう語る。「お客さんの価値観が変わってきている。RINNEシリーズはリサイクルなので商品ごとにレザーの状態が異なる。だからお客さんは、どれにしようか一個一個真剣に見て買われている。あなただけに作られたものが売れる時代になった。」[3]

またPatagoniaの事例と同様に、RINNEシリーズも決して安価ではなく、MOTHERHOUSEの新品商品と変わらない価格帯で提供されている。それでもヒットしているのは、RINNEのコンセプトや商品の美しさへの共感の表れだろう。

図表3 MOTHERHOUSE「RINNE」の商品
出所:MOTHERHOUSE

イトキンのリメイクD2Cブランド「re:mine」

新品在庫だけを使ったリメイクブランドも出てきている。複数のアパレルブランドを運営するイトキンは2020年10月、自社倉庫の在庫商品を新たなデザインでリメイクするD2Cブランド「re:mine(リマイン)」を始めた。アパレル業界が抱える膨大な余剰在庫を活用する事例だ。

図表4 「re:mine」の商品
出所:イトキン

ダイレクト接点がブランドの選択肢を増やす

一方で、時間と手間のかかるリメイク事業は高利益なビジネスとは言い難い。場合によっては単体事業での黒字化は難しいかもしれない。だからこそ単体で捉えるよりも、複合的に捉えていくことが不可欠になっていくだろう。ここでも顧客とのダイレクト接点を起点に考えることが活路になり得る。なぜならダイレクト接点はブランドに選択肢をもたらすからだ。

例えば、PatagoniaもMOTHERHOUSEも中古品の回収を自社ECサイトや直営店舗で行っている。これらの顧客とのダイレクトな接点を活かし効率よく中古品を集めることが、中古品事業やリメイク事業のスタート地点となっている。また、前回コラムで取り上げたように、顧客とのダイレクト接点はブランドの受注生産も可能にする。在庫リスクのない受注生産は大幅なコストカットにつながる。他にもダイレクト接点によって増える選択肢はあるだろう。

廃棄規制や原材料の高騰などアパレル業界には課題が多いが、ダイレクト接点によって、これまでできなかったことができるようになる。それらを組み合わせて新しいアパレル事業を組み上げていく、そんな時代を迎えようとしているのではないだろうか。

KDDI総合研究所コアリサーチャー 沖賢太郎

◼️アップサイクルに関するKDDI総合研究所の取り組み「GOMISUTEBA」
使われなくなった家具などからアップサイクル家具の製作を目指すプロジェクトです。不要になったもの、使わなくなったものを3Dデータ化し素材として閲覧できる仕組みや、形の違う素材の組み立てを補助するジョイントモジュールの考案を通じて、アップサイクルの一般化に取り組みます。
https://future-gateway.jp/project/gomisuteba/

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大企業がD2Cを目指すワケ
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https://rp.kddi-research.jp/article/RA2019015
マスプロダクトが売れない時代のD2C – part2 - 〜国内D2Cビジネスや既存企業のD2C転換への示唆
https://rp.kddi-research.jp/article/RA2021015

◼️参考文献
[1] 北欧、暮らしの道具店オリジナルドラマ「庭には二羽」— YouTube(2022.04.28)
https://www.youtube.com/watch?v=AjInpFPmmto

[2] Patagonia has had enormous success with upcycled clothing. Could other brands follow? — Fastcompany(2021.01.11)
https://www.fastcompany.com/90592541/patagonia-has-had-enormous-success-with-upcycled-clothing-could-other-brands-follow

[3] 2040未来からの提言「ファッション×ブランド作りの未来」—Newspicks(2021.08.24)
https://newspicks.com/movie-series/58?movieId=1468