Nextcom⁺

キャッチアップ画像

【インタビュー】日本の情報通信分野における規制緩和の歴史と競争法の最前線

執筆者: Nextcom編集部
カテゴリ: インタビュー
発行日: 2026/07/06

Nextcom監修委員会で長く委員、委員長を務められ、このたび顧問にご就任いただいた立教大学 舟田正之名誉教授へのインタビューを行いました。

(2026年5月19日。聞き手:Nextcom編集長 加藤尚徳)

これまでのご研究の歩みと、情報通信分野との交差点

加藤: 先生がこれまで注力されてきたご研究の歩みについて、本誌の読者へ向けて改めてお聞かせいただけますでしょうか。情報通信やICT分野へアプローチされるようになったきっかけもあわせてお伺いできればと存じます。

舟田先生: 私が電気通信の勉強を始めたのは、行政法の塩野宏先生を中心としたKDD内での研究会に参加した時です。当時は電電公社(現NTT株式会社)とKDD(現KDDI株式会社)の二社体制で、両社の関係をどう整理するか、という議論をしていました。メンバーには塩野先生のほか、国際法の山本草二先生、商法の江頭憲治郎先生や落合誠一先生などもいらっしゃいました。「エンドツーエンド」、「ぶつ切り」などの言葉に接したのもその頃です。

通信の自由化・競争導入とNTT民営化は1985年に始まりますが、大きな転換点となったのは、1982年に出された第二次臨時行政調査会(土光臨調:土光敏夫会長)の基本答申です。革新的でした。基本答申で電電公社・国鉄の分割・民営化、日本専売公社の民営化の方向性が打ち出されました。

電気通信については、競争導入とともに、「公社」という行政組織形態をどう変えるべきかが論点になりました。電電公社は民営化という意味では「株式会社」になりましたけれども、「特殊会社」という扱いで、特殊法人の一種です。特殊法人問題はこの前後、「行政改革」の一環として十数年にわたって議論されました。特殊法人をどのような組織とし規制するのか。国鉄や道路関係四公団、日本住宅公団なども同様です。組織形態とともに、私がその後取り組んだのが情報公開法で、行政機関と私人に関する情報公開法とは別に、特殊法人・独立行政法人等の情報公開に関する法律が成立・施行されました。

加藤: 2001年でしたね。私の専門である個人情報保護法の観点でも、1988年の「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」の策定に至る議論の中で、塩野先生が指導的なお立場で、情報公開と個人情報保護について熱心に取り組まれていたと記憶しております。

舟田先生: ええ。塩野先生には本当にお世話になりました。1985年の通信自由化以前、塩野先生から郵政省(現総務省)の電気通信審議会(現情報通信審議会)の下に作られた特別委員会の委員に就任するよう言われました。郵政省の担当部局は、当時はまだ局ではなく、大臣官房の中の「電気通信監」という小さな組織で、20数人しかいなかったと記憶しています。この委員会にいろいろな方が呼ばれたのですが、印象深かったのは、NTTから真藤恒さん(当時社長)がいらしたことです。当時の郵政省と真藤さんは明らかな対立関係にありました。私はまだそのころ30代で、政治的な闘争の一端を垣間見たことになります。さらに、全電通(全国電気通信労働組合)の方が委員会に出席していることに驚きました。強い力を持っていました。委員長は山岸章さんという有名な方でした。

加藤: 情報公開の断面で言えば、NTTと全電通のつながりはあったのでしょうか。

舟田先生:情報公開の問題になったのは、NTTではないですね。NTT側は、特殊会社と言われているけれども、実質は自由で、民間と同じ扱いになるという一貫した主張でした。情報公開はあまり議論にならなかった。むしろ「特殊法人だから会社とは違う」と言い続けるNHKが議論になりました。当時の特殊法人の情報公開法の中心はNHK問題でしたね。

加藤:個人情報保護の歴史でも全電通が出てきています。当時海外からプライバシー保護を専門とする研究者を招いてイベントを開いたり調査を行うなど活発に活動していたということです。

舟田先生: 私は、当時の全電通はNTT経営陣の別動隊という印象を持っています。「NTTを分割するな」、「民営化して自由にしてくれ」と主張し続けていたのです。

日本の情報通信行政における規制緩和とNTT分割問題

加藤:いろいろな先生方に歴史のお話を伺うと、 規制改革の歴史において、土光臨調が一つのきっかけであったとおっしゃられたり、現代でも土光臨調を見習って、とおっしゃるのを耳にします。

舟田先生: 土光臨調の当時のスタンスというかDNAは、その後継の行革審(臨時行政改革推進審議会)や行政改革委員会へと受け継がれていったという気がしますね。どういう意味かというと、「それぞれの規制行政庁と一線を引く」ことです。これが生命線なんですね。それぞれの規制行政庁と必ず違う目で見るということです。

例えば総務省が権限を独占しているところに、それとは別の行革審などがズカズカ入って「それはおかしいのではないか」と指摘する。私はこのような相互批判が非常に大事なことだと思っています。
ただ、土光臨調には圧倒的な力がありましたが、その後は宮内義彦さん(オリックス)や三木谷浩史さん(楽天)など民間に頼るようになっていますね。

舟田先生写真
Nextcom監修委員会 顧問、立教大学 舟田正之名誉教授

NTT問題について最も印象深いのは、1995年(平成7年)の「平七戦争」です。第2次分割議論ですね。1985年以来、いったん決まっても何年以内に必ず見直すという条項があり、その見直しが始まったのが平成7年でした。その当時私は電気通信審議会の委員になっていました。審議会では一年以上かけて検討しました。(旧)郵政省としては分割を実現したかったのですが、政治の力学もあり、結果的に完全分割(所有権分離)はできず、東西2社とNTTコミュニケーションズへの法的分離・持株会社体制に落ち着きました(1997年末)。

分割問題と平行して議論の焦点となったのが「接続問題」です。NCC(1985年の通信自由化を受け新規参入した電気通信事業者の総称)が、NTTに対し接続を要求したら、拒否してはいけない、その接続条件をどう設定するかという問題です。

私はNTT分割問題に関しては、基本的には政治の仕事だと思っていました。法的に何がいいということはないですから。しかし接続問題は、まさに法律家の仕事です。接続料金については、LRIC(長期増分費用方式)をどう実現するかが難しい問題でした。ビル・クリントン政権下のアメリカが1996年に電気通信法を改正し、新規参入者とAT&T分割後の既存の地域電話会社との接続条件を整備しました。ヨーロッパはイギリスが先行していました。電話局の交換設備の諸機能や光ファイバーの「アンバンドリング」の議論もこの頃です。

そして2000年から再燃した「NTT再々編」の議論では、電気通信審議会・特別委員会の接続小委員会で私が主査を務め、以前の分割論議の蒸し返しではなく、NTTとNCCの間の接続についての「公正競争ルール」など、一連の新たな競争制度の導入の策定を行い、「IT革命推進のための電気通信審議会第一次答申」(2000年)に至りました。私はこの間の議論にかなり力を入れて参加し、その後、論文にまとめました。

2003年には、公正取引委員会がNTT東日本に対して独占禁止法違反(私的独占の禁止)の勧告を出しました。これは総務省からしても、寝耳に水だったのではないでしょうか。NTTは世界に先駆けて光ファイバーの「Bフレッツ(ニューファミリータイプ)」を始めましたが、東京電力が参入してきて、価格競争が起きました。ソフトバンクやKDDIなどへの接続(卸売)料金よりも、自社のエンドユーザーへの小売料金を安く設定したのではないかと疑われました。私もこの議論に巻き込まれ、多くの方と議論しました。7年後に最高裁でNTT敗訴、独禁法違反が確定します。

その後民主党政権下で、当時の原口一博総務大臣とソフトバンクの孫正義さんが組んで「光の道」構想(日本のすべての世帯における光ファイバーなどの超高速ブロードバンドの普及率を100%に引き上げることを国家目標とする政府の取組)を掲げた時期がありましたね。民主党の3年間はいろいろ自民党と違うことを仕掛けられましたが、私自身は実質的にはあまり変わらなかったという印象を持っています。

もう一つ、独禁法や規制改革の大きな転換点として忘れてはならないのが、1990年代の「日米経済協議(日米構造協議)」です。アメリカからの外圧で、流通、電気通信、金融などの門戸開放が求められ、日本的な系列取引や閉鎖性が批判されました。私は当時、電気通信以外の分野も含めて、日本的な取引関係・慣行の見直しに取り組みました。

舟田先生著書の表紙画像

舟田先生著書『経済法総論』(2023年有斐閣)
経済法とは何か,経済法学は他の法領域といかなる関係に立つか──。経済法総論の基礎となる諸法・諸規範に通底する法原理を,競争秩序,取引の自由という2つの概念に見い出し,経済法のすべてに通じる基礎的概念・理論の提示を試みる。

現在注目されている研究・社会課題

加藤: 現在、先生が最もご関心を持たれている研究テーマは何でしょうか。

舟田先生: 1つ目は、経済法一般にもかかわる問題かもしれませんが、「地球温暖化」や「脱炭素化」の独占禁止法上の位置づけに関してです。つまり、SDGs(持続的な開発目標)にも「気候変動」を軽減するための緊急対策を講じることが掲げられていますが、企業間で共同して脱炭素化に取り組む動きを、独占禁止法上どう捉えるかということです。
2つ目は、「デジタルプラットフォーム」に対する規制です。
3つ目は、「エネルギー(電力)」です。私個人としては、今は電気通信よりも電力の方が大きな制度・政策問題だと捉えています。
現在、これら3つを扱う『競争法の最前線』といった本を準備しているところです。
4つ目というべきか分かりませんが、経済法の理論的、原理的研究をずっと続けています。ドイツの経済法・競争法の研究を手がかりに、公正な競争秩序、その中で取引する事業者・消費者の「取引の自由」を法的に保護し、究極的には消費者の利益を確保するような経済秩序の構築を模索しています。

加藤:独禁法が前提としている 競争の社会とは、「社会や経済が成長し大きくなる」というモデルが、人口減少・経済縮小社会の日本においてそのまま通用するのかという点に、私は非常に興味を持っています。

舟田先生: はい。私の方でもその点についてずっと考えているところです。成長モデルよりは、各産業の事業、経営、競争・取引のあり方を見直し、経営者や企業の幹部社員だけでなく、労働者・消費者の生き生きとした活動を伸ばすような経済環境を目指したいものです。

独占禁止法の研究カバー画像

舟田先生著書『独占禁止法の研究』(2021年勁草書房)
長年経済法の研究に携わり、独占禁止法を中心に、通信・エネルギー・運輸など多様な公的規制法を扱ってきた著者の既発表論文から、現時点で特に重要と思われる13本をピックアップ。
論文刊行後の判例の追加など、内容面のアップデートを施した上で、独占禁止法の諸規定に関する解釈論を展開する論考を整理して収録する。

監修委員から見たNextcom

加藤: 先生には長年、Nextcomの監修委員としてご指導いただいております。特に印象に残っていることはございますでしょうか。

舟田先生: NextcomはKDDI総合研究所から出る雑誌ですが、発刊の当初から、KDDIの利益とは一線を画し、中立的な立場から編集するという方針をとり、それをずっと守って来たことに敬意を表したいと思います。

執筆者もそれぞれのテーマに最適な方々であり、毎号新鮮な気持ちで読んでいます。近年いろんな論文を読んでいて、時折貴誌に掲載された論文を引用するものに出会うことがあり、これも嬉しいことです。

今後の情報発信への期待とメッセージ

加藤: 今回、紙媒体に加えて『Nextcom+(ネクストコムプラス)』という新しいウェブ媒体がスタートします。今後のNextcomがどのような議論の場となることを期待されますか。

舟田先生: 今日のネットワーク社会において、新しい動向や議論などについて、引き続き新鮮で、刺激的な記事を掲載してほしいと思っています。私個人の興味としては、デジタルプラットフォームやAIについて、各専門分野から多様な解明を試みるような記事を期待しています。私自身は、経済法を専門分野としていますが、記事としては、特定の専門分野に閉じるような記事よりは、むしろ他の法分野、またより広く経済学、経営学、技術等、他の専門分野と重なる領域にまたがる学際的な記事が欲しいものです。

加藤: 本日は大変興味深いお話をいただき、誠にありがとうございました。引き続き、ご指導のほどよろしくお願いいたします。

舟田先生ご略歴
1969年(昭和44年)6月 東京大学法学部卒業
1969年(昭和44年)7月  東京大学法学部助手
1972年(昭和47年)11月 立教大学法学部専任講師
1975年4月(昭50年)   同上  助教授
1982年4月(昭和57年)  同上  教授
2012年3月(平成24年)  定年退職
2012年4月(平成24年)  名誉教授の称号を受ける

<学会活動>
日本経済法学会会員(1984年から2017年まで理事。1999年から常務理事を務め、2005年から2011年まで理事長)
日本国際経済法学会会員(1991年から2004年まで理事。2004年から2006年まで常務理事)
その他、公法学会等の会員

<社会的活動>
電気通信審議会専門委員(1985年から1993年まで)、同審議会委員(1993年から2001年まで。途中で情報通信審議会に改組)、情報通信審議会臨時委員(2001年から2002年まで)。同専門委員(2008年から2010年まで)
公正取引委員会・独占禁止法懇話会委員(2004年から2017年まで)
その他,内閣府、公正取引委員会、国土交通省、経済産業省等で各種の委員を務める。