スーパーのレジで予期せぬことを言われて戸惑った。
アメリカのスーパーでは一度に大量の買い物をする人が多く、大きなカートを一杯にしている人も珍しくない。
その上、レジの店員はテキパキと捌こうとするわけでもなく、中にはレジ待ちの長い行列ができているのも気にせず、客と世間話をしたり冗談を言い合ったりする店員もいるなど、誠に呑気なもので、レジを通過するのには非常に時間がかかる。
少量の買い物をする人のために、エクスプレスレーンを設けているお店もある。品数が少なければこのレジを利用することで比較的早く済ますことができる。何品までがこのレジを使えるのかは店によって異なる。
先日食料品を買うために、いつも利用しているスーパーに行き品物を手提げカゴに入れてレジに並んだ。順番が近づいてきたので品物をカゴから取り出してベルトコンベアに並べ始めた。
すると店員が、「このレジは15品以内のエクスプレスレーンだから隣のレジへ行きなさい」と言って、「エクスプレス 15品以内」と書いてある看板を指差した。
いつも来ているお店だから、指を差されなくてもそんなことはわかっている。
そのときカゴに入っていたのは、野菜やフルーツや肉やパンなどで、嵩張るものが多かったのでカゴの上から少しはみ出るほどだったが、品数は15品以内だった。
たとえばジャガイモなどはバラ売りのもの5−6個を1つの袋に入れていたので、これを1袋で1品と数えるのか袋の中の1個ずつを1品と数えるのかで品数は変わってくるが、一般的には1袋で1品と数えるはずだ。最初から袋入りで売られているものと同じ扱いにすべきだ。
そのような理解のもと、カゴに入れた品物は全部で11品だったのでエクスプレスレーンに並んだ。
ベルトコンベアにまだ全部乗せ切っていない段階で、店員はカゴの状態をざっと見て15品を超えていると判断したようだ。
隣のレジへ行きなさいと言われて、さては袋の中のもの1個ずつを1品と数えるシステムなのかと、少し不安になった。もし1個ずつを1品と数えると全部で20品くらいになってしまう。ただ、そんな数え方はしないだろうし、もしするとすればおかしいだろうという気持ちもあった。
さてどうするか。店員の指示に素直に従って隣のレジに並び直すか、それとも1袋で1品とすると全部で15品以内だと主張し、袋の中の1個ずつを1品と数えるのかと質問して、場合によっては店員と議論になるのを覚悟するか。
隣のレジに並び直すのも面倒だが、店員と議論するのも面倒だ。さらに時間がかかると後ろの客にも迷惑がかかる。咄嗟に、店員の注意が聞こえなかった振りをして、そのままベルトコンベアに品物を並べ続けた。
全部並べてみれば15品以内であることが一目瞭然だろうし、再度店員に注意されたら、そのときに数え方を確認すればいい。
ところが店員は再度の注意をすることもなく、「結局15品以内だったね」とか、「1個ずつを1品と数えると全部で15品以上だよ」などと言うこともなく、何事もなかったかのように淡々といつもどおり処理してくれた。
あの注意は何だったのか。おそらく、聞こえなかったのかとか英語がわからないのかと思って、仕方がないなとそのまま処理してくれたものではないか。
こういうとき、自己主張の強いアメリカ人の客なら、店員と議論しようとする人が多いのではないかと思われるが、これまでにレジでそのような議論をしている光景を見かけたことはない。
明らかに15品を超えていると思われるカートを押してエクスプレスレーンに並ぶ客もいるが、店員が注意しているのを見かけたことはない。「15品以内」というのはあくまでも目安であって、それほど厳格なルールではないのだろうと思っていた。
しかも今回は一応15品以内だ。これまでにも11品以上や15品ちょうどでエクスプレスレーンに並んだことは何度もあるが、店員に注意されたことは一度もない。
だから、今回、「隣のレジに行きなさい」と言われたのは予期せぬ出来事で、ちょっとショックだった。
こういうカスタマーフレンドリーでない店員に対しては、聞こえなかった振りをするというのもいい作戦だと思った。