NFCが普及しない理由


米国でNFCを使ったモバイル決済がなぜ普及しないのか、その理由をボストン連邦準備銀行がまとめた。

2013年6月に非接触型モバイル決済に関する業界関係者のワークグループ会合が開催され、その議論をまとめたレポートが発表された。

ワークグループ会合での議論は今後普及する技術として、NFC、クラウド、QRコードのいずれが有望かというのがテーマだったが、議論の中身はNFCがなぜ普及しないのかという点に集中した。

NFCの導入が技術的に複雑なことと、コストが大きいことが一番の問題だ。NFCの導入に当たっては多くの関係者と調整しなければならない。関係者には銀行、カード会社、スマートカード(チップ)メーカー、POS端末やスマホのメーカー、通信キャリア、TSM(Trusted Service Manager)などがあり、全関係者のコーディネートのもと、SE(Secure Element)、スマホ、POS端末、決済アプレットのテストや認証を行わなければならない。これは大変なことだ。

またPOS端末をNFC対応にすることは、加盟店にとって大きな負担になる。端末の置換コストだけでなく、スタッフのトレーニングや顧客への周知なども必要だ。それだけのコストをかけてもユーザが使ってくれるという保証はない。さらに不正利用を防止するためのチップ方式のEMVへの対応もいずれ迫られる。今NFC対応端末に置換したとしても、またEMV対応で置換しないといけないことになったら二重のダメージだ。

技術的な複雑性やコストの問題は銀行やカード会社も同じ。クレジットカードの更新サイクルは通常1-2年なのに対し、NFCはスマホのOSが更新される度にテストや認証を行う必要がある。スマホのOSは大体半年から1年ごとに更新されている。これも大変な作業だ。

さらに、NFCに限らないが、モバイル決済にはセキュリティの問題が避けられない。スマホにはインターネットにつながるアプリが多数搭載されている。ネットワークの脆弱性に対する対策も重要だが、端末自体のセキュリティ対策も重要だ。何か問題が起こったら大変なことになる。

そういうわけで今のところ大規模加盟店でNFCを導入しているのは約10%。大多数はユーザニーズがほとんどないという理由で導入意向はない。中小加盟店にいたっては、NFC対応のスマホを使っていない顧客が大多数であることや、POS端末を置換する余裕がないことから、普及が爆発的に拡大する「クリティカルマス」を待ってから導入するというのが必然的な方向性だ。

すなわち、加盟店はユーザニーズがないので導入しない、ユーザは使える場所が少ないので使わないという悪循環に陥っている。その中で比較的成功している例として、スタバ(Starbucks)の閉鎖型モバイル決済が挙げられている。

スタバの店舗ではSquare Walletが使えるが、それはQRコードを使う方式だ。スマホのアプリで表示させたQRコードをレジのスキャナで読み込んで決済する。

スタバのレジに設置されたQRコードスキャナ

スタバでは1週間で450万件の支払いを処理しているが、そのうちスマホの利用は10%以上。プリペイドのスターバックスカードの利用は30%以上。ロイヤルティプログラムの利用は25%。スマホのアプリにロイヤルティプログラムを組み込むのは効果があるようだ。

スタバの成功にあやかろうと、ドーナツチェーンのDunkin DonutsやドラッグストアのCVSなどもQRコードによる閉鎖型モバイル決済やロイヤルティプログラムを導入した。まずはQRコード方式で徐々に浸透する兆しのように見える。

以上をまとめると、NFCを含め非接触型モバイル決済がなぜ普及しないかという問いに対して、10字以内で答えるとすれば、「いろいろ問題がある。」ということになろうが、議論参加者のコンセンサスとしては、「長期的には成功する。」という見方だ。

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